カドミウムは抗酸化酵素を抑制することが知られており、過酸化水素のような反応性酸化物質の産生をもたらす。これまでの研究によりN-アセチルシステインがカドミウムトリモデルにおける酸化ストレスレベルを正常値まで引き下げる効果があることが分かっているが、その分子機構は明らかではない。今回我々は、細胞レベルでの様々なストレスの緩和に重要な役割を果たしている、金属反応性転写因子-1(metal-responsive transcription factor(MTF)-1)に着目し、N-アセチルシステインの予防投与がカドミウムトリモデルにおいてMTF-1を増幅させているのではないかという仮説を立て、その遺伝子発現レベルと蛋白の分布および発現レベルを検証した。60時間温めた有性鶏卵からトリ胎児を卵殻の外に移植し、N-アセチルシステインの予防投与後にCdまたは血清を直接投与した。その後1、4、8時間後にトリ胎児を摘出し、Trizol保存とホルマリン保存の両方を作成した。Trizol保存検体からはRNAを抽出、cDNAを作製した後、MTF-1遺伝子に対するプライマーを用いてリアルタイムPCRを行い、結果を対象遺伝子のGAPDHと比較し、比較的発現度を統計学的に分析した。その結果、統計学的優位差をもってN-アセチルシステインの予防投与群でMTF-1遺伝子の発現が増幅されていることが確認された。また一方でホルマリン保存したトリ胎児を用いて免疫蛍光染色を行い、多焦点顕微鏡を使用し、その分布と発現を二重盲検法にて客観的に比較した。その結果、N-アセチルシステインの予防投与群でMTF-1蛋白の発現が著しく増強されていた。これらの結果を第15回ヨーロッパ小児外科学会にて口演発表する機会を得て、全世界に我々の研究成果を発信することができたことはこの助成事業の成果として大きいものと判断する。
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