DNAメチル化は胚発生・分化に重要なDNA修飾機構のひとつであるが、近年DNAメチル化の異常が様々な腫瘍の発生に関与していることが報告されている。 我々は皮膚腫瘍モデルマウスを作製し、その正常皮膚と皮膚腫瘍を用いてDNAメチル化解析と遺伝子発現解析を網羅的に行った。その結果、腫瘍組織で高メチル化・低発現を示した遺伝子が1個、逆に腫瘍組織で低メチル化・高発現を示した遺伝子が39個あった。これらはDNAメチル化変化と遺伝子発現変化を伴うことから腫瘍の発生・進展に関与する可能性が高く、腫瘍関連遺伝子である可能性が示唆された。今回これらの遺伝子をヒト神経芽腫で解析した。 目的はヒト神経芽腫の新規腫瘍関連遺伝子を同定し、その遺伝子の治療標的としての可能性を検討することである。 前年度の解析から絞り込まれた7個の遺伝子につきヒト神経芽腫細胞株を用いてDNAメチル化解析を行った。その結果EPHB2遺伝子とTFAP2E遺伝子が正常組織と細胞株とでDNAメチル化レベルに有意差を認めた。これらを対象に神経芽腫臨床検体を用いてDNAメチル化解析と遺伝子発現解析を行ったところ、TFAP2E遺伝子が腫瘍組織で高発現・低メチル化を示した。強力な脱メチル化剤である5-aza-2 deoxycytidineをヒト神経芽腫細胞株に作用させTFAP2E遺伝子の遺伝子発現制御機構を解析したところ、コントロール群と比較し5-aza-2 deoxycytidine投与群で低メチル化・高発現を示した。神経芽腫臨床検体のDNAメチル化レベルと生存月数をもとに行った生存分析では、TFAP2E遺伝子CpGi-1において高メチル化群より低メチル化群が予後不良であった。 以上よりTFAP2E遺伝子はヒト神経芽腫の新規腫瘍関連遺伝子である可能性があり、その発現はCpGi-1のDNAメチル化の制御を受けている可能性が示唆された。
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