研究概要 |
骨芽細胞と脂肪細胞は間葉系幹細胞からの分化の最終段階で分かれることから系統上近接しており、脂肪細胞の骨分化誘導による骨欠損治療が行える可能性がある。我々は同一のヒト脂肪組織から採取した脂肪組織由来間葉系幹細胞と天井培養由来前駆脂肪細胞が長期の継代後も脂肪細胞分化能の差異を保持していることを明らかにした。しかし、脂肪組織由来間葉系幹細胞と天井培養由来前駆脂肪細胞のどちらが分化系上、より骨芽細胞に近いかは明らかでない。本研究の目的は、脂肪組織由来間葉系幹細胞と天井培養由来前駆脂肪細胞の骨分化能の違いを明らかにすることである。 ヒト皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理の後遠心分離していられる脂肪組織由来間葉系幹細胞を多く含む間質血管細胞群と、天井培養由来前駆脂肪細胞となりうる脂肪細胞が多く含まれている浮遊層細胞群の、メッセンジャーRNA発現を比較した結果、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ, レプチン、CCAAT/エンハンサー結合たんぱくデルタ浮遊層細胞群などの脂肪分化マーカーは浮遊層細胞群で高かった。7日間の培養後の脂肪組織由来間葉系幹細胞と天井培養由来前駆脂肪細胞の両者の遺伝子発現はほぼ同程度となった。一方、ルント関連転写因子2,転写因子Sp7などの骨分化関連遺伝子発現は天井培養由来前駆脂肪細胞と比べて、脂肪組織由来間葉系幹細胞で発現が高かった。天井培養由来前駆脂肪細胞と脂肪組織由来間葉系幹細胞を骨分化培地で培養したところ、脂肪組織由来間葉系幹細胞の方がアリザリン染色で濃染した。 骨分化と脂肪分化は密接に関係し、脂肪分化のマスターレギュレーターであるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(ガンマ)は脂肪分化を促進する一方で骨分化を抑制することが知られている。本研究により、脂肪組織由来間葉系幹細胞は天井培養由来前駆脂肪細胞と比べ、より骨芽細胞に近い性質を保持していると考えられた。
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