本研究の目的は,化学療法の皮膚合併症に対して美容医療的手技を用いる治療の効果を高めるため,加齢による変化と化学療法の合併症による変化を詳細に比較することである。組織を用いる研究対象は,良性腫瘍切除などの治療目的で審美的観点から切除せざるを得ない顔面皮膚である。 病理組織学的解析では,正常高齢者(60歳以上)と化学療法施行後(50歳以下,n=6)の皮膚では,乳幼児(1歳未満)皮膚と比較して表皮の菲薄化と真皮乳頭の減少および真皮浅層の血管網(CD31陽性細胞)の減少を認めた。正常高齢者と化学療法施行後でこれらに明らかな差を認めなかった。 真皮由来細胞の分化能を検証したところ,乳幼児では脂肪や軟骨へ分化能を示したが,高齢者や化学療法施行後では同様の多分化能は認めなかった。老化や化学療法による皮膚変化は真皮に存在する幹細胞の減少と関連があると考えられたが,老化と化学療法後の皮膚では明らかな差を認めていない。乳幼児真皮に特異的な現象であったり,化学療法施行後の検体数が少なかったりするため,さらに多面的な検証が必要である。 同様の病理組織学的解析を,同一個体,同一部位の皮膚で化学療法施行前後で評価した(n=2)。前述の個体間の比較同様の傾向は認めたが,検体数が少なく,化学療法によって引き起こされる急速な皮膚変化と緩徐な紫外線暴露がもたらす老化との違いを明確にとらえるには至っていない。 顔面皮膚画像解析装置による化学療法施行前後の皮膚変化についても定量比較した(n=4)。色素沈着や不均一性など,老化に認められる変化は一様に認めたが,どのような変化がより強く出るかについては一様ではなく個体差が大きい傾向があった。これも対象数を増やして検証を重ねる必要があると考えられた。
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