脂肪組織由来幹細胞(Adipose-derived stem cells:ADSCs)は均質な細胞ではなく実際には多様な細胞群により構成されると考えられており、個々の細胞の発生学的由来や能力の差異についてもよくわかっていない。研究代表者らは発生学的由来による脂肪組織幹細胞の多様性の解明を行うことで、効率的かつ安全なASCの再生医療応用法の研究を行ってきた。まず神経堤由来細胞を追跡できるP0、Wnt-1-Cre/loxp-GFPマウスを用いて、脂肪組織幹細胞の一部が神経堤由来の細胞集団であり、通常のADSC培養条件で培養できることを明らかにした。これらの細胞群(約1-5%)が高い脂肪分化能を有すると同時に、骨・軟骨に分化しにくい性質を維持していることが分かった。また神経やグリア系細胞(シュワン細胞など)に分化しなかった。脂肪前駆細胞と指摘されているCD24・CD34やp75NTRなどの発現率が高値であったことと、非常に脂肪に分化しやすい性質から、これらの細胞群は神経堤幹細胞とはまた異なる細胞集団であり、脂肪組織の成長、ターンオーバーに関わっている可能性も考えられた。 in Vivoにおける神経堤由来ADSCsの局在については脂肪間質(血管周囲)と思われた。またこの細胞はIn Vivoにおいてもp75NTRとS100陽性であり、GFAPやEndothelial cell marker、pericyte marker、mural cell markerのいずれも陰性であった。 また異なるマーカー(Wnt1)においても、脂肪組織由来間質細胞(ASC)の一部が神経堤由来であり、白色脂肪前駆細胞に近似した性質を持っていることが明らかとなった。 ヒトにおいてもp75NTRやS100β抗体を用いて、神経堤由来脂肪間質細胞を分離できる可能性がある。これらの細胞を選択的に用いることで従来に比較してより効率良く安全に脂肪再生に関連した臨床応用(Fat Augmentation)に利用可能なことが考えられる。
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