研究代表者は本研究以前に、コラーゲン分解酵素であるMMP-1の発現低下が肥厚性瘢痕の病態のひとつと考えられること、瘢痕組織内にbFGFを投与するとMMP-1の発現亢進および瘢痕形成を抑制するHGFの発現亢進を介して瘢痕重量やコラーゲン量が減少することを明らかにしてきた。外的に投与されたbFGFが肥厚性瘢痕など皮膚の瘢痕状態に対して大きな影響を及ぼすことが示された。これによって初めて、bFGF投与が既に形成された肥厚性瘢痕に対する新しい治療アプローチになりうることが示された。創傷関連増殖因子であるbFGFは瘢痕組織の線維芽細胞を刺激し、適切な組織再構築と優れた整容的改善をもたらすのではないかと考えられ、肥厚性瘢痕以外の醜状瘢痕にも治療的効果をもたらすことが期待できる。 瘢痕形態を気にして受診する患者は多いものの、確立した治療法はなく、ステロイドの外用や注入、シリコンゲルシート貼付、放射線治療、外科的手術などが行われているが、必ずしも満足な結果を得られているわけではない。瘢痕の整容的改善をもたらす新しい治療法の開発は、創を扱う医療において大きな意義をもつ。bFGF製剤は臨床で難治性潰瘍治療目的に利用可能であり、瘢痕に対する治療効果が証明されれば、臨床応用はすぐにでも可能である。しかし現状では肥厚性瘢痕や醜状瘢痕に対する増殖因子局所投与治療についての報告は少ない。 bFGFが皮膚に及ぼす影響を分子レベルで評価した本研究結果が、様々な瘢痕に対する安全な治療につながると考えられる。
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