ヒトやマウスなど哺乳類の皮膚は胎生中期までの時期に損傷を受けても瘢痕を残さずに再生するが、その後、瘢痕を残して修復されるようになる。つまり、fetal-typeからadult-typeの創傷治癒様式へ、数日間のうちにダイナミックな変化が起こる。この変化の中に皮膚再生を実現するための鍵があると考えられる。本研究では、胎生中期までの創傷部位においてリンパ管が比較的豊富に形成される点に着目し、特に発生に伴う血管およびリンパ管構造の変化に着目して皮膚創傷治癒との関連について研究を行った。 ICRマウスの胎生13日目、15日目、17日目の胎仔、および出生後1日目の新生仔の背部皮膚に全層切開創を作成し、創傷作成後24時間、48時間の時点で組織を回収して検討した。皮膚の再生が可能な胎生13日目においては、LYVE1陽性のマクロファージが顕著に創傷部位へ集積するものの、明らかなリンパ管の形成を伴わず、また肉芽組織の形成も認めなかった。また、真皮直下に幼弱な血管構造の構築を認めた。胎生期が進むにつれて、LYVE1陽性のマクロファージの減少、F4/80単独陽性の単球の増加とともに、LYVE1陽性のリンパ管が形成されるようになることが分かった。胎生17日目以降の創部においては、マクロファージとともに好中球が集積し、幼弱な血管を伴った肉芽組織の形成を認めるようになった。 胎生中期以前の創部では、機能的な血管やリンパ管の新生を伴わず、マクロファージを始めとする幼弱な細胞を中心として創傷治癒過程が統合されている可能性が示唆された。胎生期の進行に伴い、血管やリンパ管の新生が起こり、adult-typeの創傷治癒様式へ移行するものと考えられた。
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