研究課題/領域番号 |
24791927
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
森山 博由 近畿大学, 付置研究所, 准教授 (90581124)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / ヒト脂肪由来幹細胞 / 神経再生 / 分化誘導 / 分化誘導シグナル |
研究概要 |
再生医療において幹細胞を利用した臨床プロトコルの設定は必要不可欠である。とりわけ、疾患別に至適化された幹細胞療法は、症状別の治療効果を生み出すことに加え、安全面も担保されることが必須である。我々の研究は、ヒト生体内から分取した、安全で高い分化能を有する新規脂肪由来幹細胞(hADMPC)を用いた真の特定疾患療法を開く研究であり、本プロジェクトにおいては、神経疾患を対象にした幹細胞サイトカイン療法の確立を目指している。そのため、当該年度は、年度計画に記した酸化ストレスを負荷したhADMPCによるBMP2、FGF2の発現誘導メカニズムの解明、およびhADMPCの細胞上清の神経細胞伸長作用メカニズムの解明を行うべく、細胞の増殖制御および経時観察、画像データ保存を厳格に実施し、細胞の形質に起因する種々の形態学的基礎データの取得に成功した。また、細胞の性状解析のために遺伝子解析からたんぱく質解析を実施し、特定の遺伝子の挙動についての知見を得るに至った。これらは、hADMPCでBMP2、FGF2の発現を上昇させる転写因子の同定や、hADMPCの細胞上清に含まれるの神経伸長活性因子の同定に繋がるものである。本年度の研究進捗に係る成果は、脳梗塞、脳溢血、脳血栓などのいわゆる脳卒中に伴う脳神経系障害を迅速に修復する手立てを提供するものとしての意義、また、脳機能障害をできるだけ寛解へ導くための安全な再生医療を提供するために必要不可欠な作用機序を明示するという意義をもった、途中にして、かつ独立した研究成果としても有意義なものである。総じてこの研究成果は、国内に於いて高い罹患率や死因ともなっている神経疾患や脳卒中の治療の一助となる成果としてもたいへん重要なものと位置づけられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度までに、酸化ストレスを負荷した新規脂肪由来幹細胞(hADMPC)のシグナル伝達経路の一端を明らかにし、酸化ストレスを負荷したhADMPCにおける神経伸張を促す主要サイトカイン(BMP2およびFGF2)の発現を上昇させうる転写因子候補分子の絞り込みを達成した。これらの成果により、(1)酸化ストレスを負荷したhADMPCによるBMP2、FGF2の発現誘導における主要なメカニズムを見い出すに至った。また、酸化ストレスを負荷したhADMPCの細胞上清を利用した、神経細胞分化モデル系(ラット_PC12細胞やヒト_SH-SY5Y細胞)でのシグナル伝達経路の概要を提唱し、同時に、それらの神経伸張作用を促すサイトカインや液性因子を機能面から明らかにすることで、最終的な絞り込み(BMP2およびFGF2)に成功し、その下流のシグナル伝達を明らかとした。このことはつまり、(2)酸化ストレス負荷hADMPCの細胞上清が、PC12の神経伸長を誘起する因子同定およびその作用メカニズムが解明されたことを意味する。これら(1)および(2)の成果は、当初より目指していた研究到達目標のマイルストーンを築くものであり、とりもなおさず単年度研究計画による当該年度の当初目的の完了を充足する研究成果である。以上より、当該年度研究計画の進捗はほぼ予定通りなされたとともに、研究全体での達成目標(研究目的)は、達成できたと評せられる。ただし、精緻なデータ取得を余儀なくされた時間的律速が起こったことも事実であり、それらが一部研究費の執行残額として表現された点も否めない。それ故、研究代表者として、概ね順調に進展しているとする評価を付した。しかしながら、この間に得られたデータは、更に研究目的を深めるような偶発的発見(セレンディピティ)に繋がり、研究進行度だけでは測れない成果が得られたことは評価に上乗せできるとも思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究成果を受け、次年度への積み残し(研究小項目としての引き継ぎ精査課題)となった(1)酸化ストレスを負荷したhADMPCでBMP2、FGF2の発現を上昇させる転写因子の同定と、ならびにこれらの因子による神経成長モデル系でのシグナル作用点の同定を、正確かつ緻密に完遂することとする。同時に、(2)さまざまな幹細胞、未分化細胞を用いた分化誘導法のin vitroでの開発、酸化ストレスを利用したhADMPCによるin vivoでの高効率分化誘導法開発を実施し、酸化ストレスを負荷したhADMPCを用いた、さまざまな標的細胞(対象疾患を拡大できうる機能性の高い終末細胞)への安全・高効率分化誘導法の開発につなげる。 (1)に関しては、概ね順調な成果の蓄積とデータ累積が達成されていることから、それらを統合的に解析するIN SILICO解析の構築と合わせ、機能解析を重視し、主要メカニズムの解明を図る。(2)に関しては、本年度までに得られた基礎データを基軸に、酸化ストレス負荷方策の精緻化や臨床応用を鑑みた施策を換算した方策の決定、神経伸張作用や、酸化という現象を用いた高効率なサイトカイン介在/非介在の神経(神経幹細胞)細胞誘導までを視野に入れ、検討を行っていく。これらの種々の知見を参集し、統合的にまとめ、データマイニング手法等を駆使し、症例別の分化誘導適応への展開も目指す。同時に、それらを検証できるモデル系の構築も行っていく予定である。ただし、基本的な対象疾患は脳神経系に関わる疾患であることを念頭におき、研究目標の主眼となった神経系疾患への新規脂肪由来幹細胞(hADMPC)の適応を目指すことは忘却しない。幹細胞の観点からは、このhADMPCを素材にした酸化ストレス等による細胞賦活も期待できる知見も得られているため、(2)の研究目標に充当することも考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、研究実績概要および現在までの達成度の項において述べたような研究計画に沿って実験を進めてきた結果、若干の未執行経費が発生した。しかしこれは、研究計画進捗(一部の律速)に応じて、その時その過程で必要最低限の的確な実験を行った結果発生した次第である。同時に、研究遂行の延長上に必要となる経費として充当することを決断し、故に次年度に接続されるべき実験計画に反映する。具体的には、未執行経費の殆どを酸化ストレスを負荷したhADMPCにおけるサイトカイン(BMP2、FGF2)の発現を上昇させる転写因子の最終絞り込みにおける遺伝子解析やタンパク質解析、ならびに転写レベルの網羅的解析に応じて配分し、執行する。また、必要に乗じて、グライコーム解析やメチローム解析などオミクス解析にも充当する。よって、概ねこれらの研究計画に則り、それに係る物品費としての研究費消化を行う。加えて、次年度の研究費とも一部合算する形式にて、今後の研究の推進方策の項目に記載した内容の研究計画に充当する。この研究では、細胞培養、細胞形態解析、安全性試験、組織学解析、遺伝子解析、タンパク質発現解析、細胞維持試験、細胞分化誘導法開発、分化細胞評価試験などが含まれる。そのため、それらの研究進捗に応じた消耗品費や備品費、必要な人件費としても消化していくことを計画している。また、その他費用の研究計画の内訳としては、ヒト組織の採取・運搬に係る費用や、研究知見の対外発信(学会発表など)や論文投稿料など、研究資材の調整費用、研究計画に沿って得られた情報や成果の情報発信の費用としても消化していくことを計画している。
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