研究課題/領域番号 |
24791930
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
藤田 和敏 兵庫医科大学, 医学部, 助教 (40461066)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 酸化ストレス / 創傷治癒 |
研究概要 |
酸化ストレスは、様々な活性酸素種(ROS:Reactive Oxygen Species)によって生体の酸化作用と抗酸化作用のバランスが崩れ、前者に傾いた状態のことである。炎症時には酸化ストレスが増大し、ROSが脂質やタンパク質、核酸などを酸化変性させ細胞機能を傷害することが知られている。一方ROSは生体に非特異的損傷を与える毒性因子であるのみならず生体内でも産生され細胞内において精密に制御されたシグナル伝達の担い手であることも明らかになっている。皮膚創傷治癒過程や肥厚性瘢痕形成過程は炎症が強く関わるにも関わらず酸化ストレスがどのような影響を与えているのかは未だ不明な点が多い。 TRPチャネルは様々な環境因子を感応するチャネルであり、TRPC5チャネルは様々な外的刺激のうち酸化ストレスに反応するチャネルでもあることがわかっている。すなわち、NO(一酸化窒素)などのROSにより、TRPC5は開口状態で安定し細胞内Ca濃度を上昇させるというものである。Caは細胞内シグナルの重要なセカンドメッセンジャーであり、その細胞内濃度の上昇はコラーゲンの発現上昇といった様々な反応を引き起こす可能性がある。 以上より「創部の細胞のTRPC5の発現量もしくは活性の違いにより、創部に存在するROSに対する反応性が異なり創傷治癒遅延や肥厚性瘢痕形成が起こるのではないか」と考えられる。 TRPC5の機能を解析するためStableなTRPC5過剰発現細胞の作成を試みた。具体的にはTRPC5遺伝子をベクター(pMXs-IRES-GFP)に組み込んだ後、パッケージング細胞としてPlat E細胞にtransfectionしレトロウィルス液を作成、目的とする細胞に感染させ、TRPC5遺伝子を細胞に組み込んだ。強制発現されたTRPC5の機能はCa imagingにて確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1).マウスTRPC5過剰発現線維芽細胞の作成;現在までにマウスTRPC5遺伝子をベクター(pMXs-IRES-GFP)に組み込んだ後、パッケージング細胞としてPlat E細胞にtransfectionしレトロウィルス液を作成、マウス皮膚線維芽細胞(NIH3T3)に感染させ、マウスTRPC5過剰発現線維芽細胞を作成した。過剰発現したTRPC5の機能についてはCa imagingにて確認している。 2). TRPC5過剰発現細胞を用いてROS添加時の細胞反応の観察;TRPC5過剰発現細胞の酸化ストレスへの応答性を観察するためROSとしてH2O2を用いた際の応答性を観察した。0.1-10mMH2O2をTRPC5過剰発現細胞とコントロール細胞に添加し、24時間の培養の後、創傷治癒・肥厚性瘢痕形成に関わる遺伝子発現をReal Time PCRを行い観察している。同じ濃度のH2O2を添加しても細胞毒性がassay毎に異なる(Mediumの参加度合いなど)ため条件検討を要した。 3). 抗酸化剤(還元剤)によって上記2).がどのように変化するかの観察;上記ROS添加実験での条件検討がまだ不十分なため、本実験はまだ行っていない。
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今後の研究の推進方策 |
1).抗酸化剤(還元剤)によってTRPC5過剰発現細胞のROSへの応答性がどのように変化するかの観察;ROSを添加した際のTRPC5過剰発現細胞の創傷治癒関連遺伝子発現の応答性を観察することで創傷治癒過程における酸化ストレスとTRPC5の関係を明らかにし、ROSの至適濃度を明らかにする。その結果を基に抗酸化剤を添加した際に応答性がどのように変化するかを観察する。 2). TRPC5過剰発現細胞をマウス創部へ移植したうえで創部の酸化ストレスマーカーの測定;TRPC5過剰発現細胞およびコントロール細胞をマウス背部左右の皮膚・皮下へ一方ずつ移植する。1週間から2週間後移植部背部左右に1箇所ずつ肉様膜まで含めた全層欠損を径5mmのバイオプシーパンチを用いて作成する。創部の状態を経時的に観察し、組織を採取する。創部の酸化ストレスマーカーとしては創部組織ホモジェナイズからDNAを抽出し、8-OHdGを計測する。TRPC5過剰発現細胞移植組織の酸化ストレス応答性がコントロール細胞移植組織と比べてどのように変化しているか計測し、同時に様々な炎症性サイトカインや創傷治癒関連サイトカイ、コラーゲンなどの発現を免疫染色法にて観察する。 3). TRPC5遺伝子のsiRNAを用いたノックダウン実験;上記1).の実験と逆にsiRNAを用いてTRPC5の発現をノックダウンしてその際、ROSに対し細胞がどのように反応するか観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記研究を遂行するため、試薬や実験消耗品、実験動物などを当研究費にて購入する予定である。
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