敗血症は感染症を基盤とした全身性炎症反応症候群であり、近年、動脈硬化を伴う重症化例が増えている。敗血症治療のひとつとして、血液浄化療法であるPDF法は、サイトカインやその他の中分子量物質を除去することで循環動態を改善すると考えられる。一方、リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素(L-PGDS)は動脈硬化巣の血管内皮細胞に発現しており、血管拡張作用などに関与している。敗血症においても血管内皮細胞からL-PGDSが分泌されていることが予測される。本研究では、敗血症において分泌されたL-PGDSが、PDF法で除去されることで、血行動態が改善すると考え、L-PGDSの血中濃度を測定し、各種パラメーターとの相関を検討し、敗血症における循環不全の新たな機序を解明することを目的とする。 当院・集中治療室に入室となった重症患者のうち、同意を得られた35例より血中L-PGDS採血を行った。このうち、敗血症群(n=11)と非敗血症群(n=24)に分けて比較したところ、血中L-PGDS濃度はそれぞれ、149.7±103.1μg/dl、94.6±10.4μg/dlと敗血症群が有意に高かった(p=0.016)。また、このうち8例については血液浄化療法を行い、治療前後の血中L-PGDS濃度は有意に低下した(p=0.008)。血液浄化療法はCHDF(n=4)、およびPDF法(n=4)であったが、各浄化法の違いによる血中L-PGDS濃度の低下率には有意差は認められなかった。 今回、敗血症において血中L-PGDS濃度は有意に上昇しており、敗血症病態にL-PGDSが関与していることが示唆された。また、血液浄化療法により血中L-PGDS濃度は低下することが分かったが、PDF法のL-PGDS除去効果と血行動態改善との相関は見られなかった。症例が少なかった為、今後、症例を重ねて更なる検討が必要であると考えられた。
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