研究課題
年々急増する重症熱中症の現行治療は対症療法の域を出ず、予後を改善し得る新規治療法の開発が急務である。致死的熱中症は高率に意識障害を合併し、中枢神経系異常が主たる病態の一つである。そのメカニズムは、脳虚血と脳浮腫(細胞障害、血液脳関門の透過性亢進と循環障害)によると考えられている。我々は、その重症化過程において、中枢性に全身炎症を制御するコリン作動性抗炎症経路の破綻が関与しているのではないかと仮説をたてた。本研究の目的は、ラット致死的熱中症モデルを用い、熱中症病態におけるCAPの関与とその賦活による新規治療戦略の有効性を検討することである。①小動物用体温保持装置(Bio Research Center社製、BWT-100A)を用いた急速加温によるラット熱中症モデルを確立した。同モデルは、熱中症設定温度を41.5±0.2℃とすることで、その重症度は致死的モデルとなり7日間死亡率は、約70%である。②電気的迷走神経刺激(10V、2mS、5Hz、20分間)による熱中症モデルの死亡率改善効果を検証した。Sham群、熱中症群、熱中症導入後に電気刺激を行う群の三群間で比較検討したところ、熱中症7日後の生存率は、迷走神経刺激により有意に改善した(26% vs. 61%)。③熱中症病態において誘導される全身炎症が電気的迷走神経刺激によって制御されているかを血清学的に解析した。熱中症刺激により上昇する血清TNF-α・IL-6値、及び血管内皮障害の指標であるE-セレクチン・トロンボモジュリン値は、電気刺激群で有意に低下することが確認できた。以上の解析によって、熱中症により誘導されるコリン作動性抗炎症経路の破綻が、その重症化過程に影響を与えることが示された。また、電気的迷走神経刺激によるコリン作動性抗炎症経路の賦活化療法は、熱中症の新規治療になりうることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、解析が進んでいる。
当初の申請書通りに解析を進める予定である。ラット熱中症モデルにおけるコリン作動性抗炎症経路の賦活化療法の効果を、生理学的評価あるいは組織学的評価によって検討する。
本年度同様に、物品費・旅費などに使用する予定である。
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PLOS ONE
巻: 8(2) ページ: e56728
10.1371/journal.pone.0056728