研究課題
我々は、熱中症の重症化過程において中枢性に全身炎症を制御するコリン作動性抗炎症経路の破綻が関与しているとの仮説を立てた。本研究の目的は、ラット致死的熱中症モデルを用い、熱中症病態におけるコリン作動性抗炎症経路の関与とその賦活による新規治療戦略の有効性を検討することである。①小動物用体温保持装置(Bio Research Center社製、BWT-100A)を用いた急速加温によるラット熱中症モデルを確立した。同モデルは、熱中症設定温度を41.5±0.2℃とすることで、最重症の致死的モデルとなり7日間死亡率は、約70%である。②電気的迷走神経刺激(10V、2mS、5Hz、20分間)による熱中症モデルの死亡率改善効果を検証した。Sham群、熱中症群、熱中症導入後に電気刺激を行う群の三群間で比較検討したところ、熱中症7日後の死亡率は、迷走神経刺激により有意に改善した(74% vs. 39%)。③熱中症刺激により上昇する全身炎症指標であるTNF-α・IL-6値、および血管内皮障害指標であるE-セレクチン・トロンボモジュリン値は、電気刺激群で有意に低下することが確認できた。④熱中症病態においてコリン作動性抗炎症経路が破綻する機序を明らかにするため、熱中症刺激後6時間の脾臓のCD11b陽性炎症細胞および同細胞上のα7アセチルコリン受容体の発現の変化を評価した。熱中症刺激によりCD11b陽性細胞は増加するが、それらの細胞の大部分がα7アセチルコリン受容体を発現していないことが明らかとなった。このことは、熱中症病態においてコリン作動性抗炎症経路が十分に機能できない可能性を示唆する。以上の解析によって、熱中症により誘導されるコリン作動性抗炎症経路の破綻が、その重症化過程に影響を与えることが示唆された。また、コリン作動性抗炎症経路の賦活化療法は、熱中症の新規治療になる可能性があることが判明した。
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Thrombosis Medicine
巻: 4(1) ページ: 34-40
PLoS ONE
巻: 8(2) ページ: e56728
10.1371/journal.pone.0056728