研究概要 |
血小板刺激薬に対する血小板反応性の個体差に関しては以前より報告されており、動脈硬化症、脳梗塞、末梢動脈性疾患発症の危険因子として知られているが、その機序の詳細はよく知られていなかった。その原因として、血小板に遺伝子改変等の分子生物学的手技の応用が困難であるためであった。 本年度は、健常人から採取した血小板のRNAよりmiRNA (miR-96, miR-886-5p, miR-128が候補のmiRNA) の発現を定量し、トロンビンによるBax、Bak発現上昇と血小板膜表面GPIb, PAR-1の発現の低下との相関関係を示し、分子生物学的手技を用いて、介在する細胞内情報伝達系を解明することを研究計画として立案した。 はじめに研究実施計画として、健康成人(約N=50)より血小板を採取し、血小板高反応者、低反応者の選定し、血小板作動薬に対する血小板凝集曲線をよりHigh Responder(高反応者)とLow Responder(低反応者)のリスト作成した。 次に、白血球除去した洗浄血小板溶液の生成とmiRNAの分離・濃縮 高反応者群と低反応者群(各N=20)の血小板濃厚血漿溶液を作成後、CD45陽性ネガティブセレクションにより白血球除去を行いRNAとタンパクを精製した。miRNAの分離と濃縮は、市販のmiVanaTM miRNA Isolation Kit 等を用い抽出した。その後、mRNAに相補的な配列が無いか複数のmiRNA Prediction Tool (Miranda, TargetScan Human5.0, PicTar, miRBase Targets Version 5.0)により、血小板活性化、細胞死と関係のあると予想されるmiRNAを探索し、関連のありそうなmicorRNAの発現の違いを定量PCRを用いて観察した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、Meg-01, HCT116-Dicer KO培養細胞に、昨年度の実験系で候補に上がったmiRA(miR-96, miR-886-5p, miR-128等)各々の pre-miR miRNA ds-oligo(Pre-miRTM miRNA Precursor Molecules, Ambion社)をNucleofection法で遺伝子導入した場合と、特異的なmiRNA阻害薬(Anti-miRTM miRNA Inhibitor, Ambion社)を投与した場合の標的遺伝子産物のVAMP8, BAX等のタンパク発現をウエスタンブロット法で確認し、標的遺伝子より下流の情報伝達系変化を観察する。 また、人工心肺下心臓予定手術患者を対象に、術前の血小板から得られた血小板内のmiR-96, miR-886-5p, miR-128等の定量により、高反応者と低反応者に振り分け、In Vitro系で測定したヒト血小板の細胞内情報伝達系の周術期変化の違いを時系列で観察する。また、周術期の出血量との関係を考察する。 予想される結果としては、術前よりmiR-886-5pが強発現している患者は、血小板が極度に活性化れず、細胞死が起き難いため、血小板機能が保持され、周術期の出血量が少なくなる可能性があると考えている。
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