研究概要 |
コカインは欧米で広く使用されている依存性薬物であり、本邦でもその使用が流行の兆しを見せている。コカインの過剰摂取による死亡例も多数報告されているが、コカインの死亡例はほぼ例外なく高体温を呈し、高体温が生命予後に深く関わっていると考えられている。そのためコカイン大量摂取時にはいかに高体温を抑制するかが治療上大変重要である。しかしコカインの高体温に関して臨床上確立された薬物治療は存在せず、対症療法が実施されるのみである。このためコカインの高体温に対する薬物治療の確立が切望されている。今回申請者は体温実験及び脳内微小透析法を用いてコカインによる高体温の機序の解明とその治療法の確立を目指す。 申請者はコカインと同様に脳内DA,5-HT濃度を上昇させる違法薬物であるMDMA,METHにおいてDA1受容体だけでなく5-HT2A受容体が高体温に重要な役割を渡していることを明らかにしている。そこですでに臨床で使用されている抗精神病薬であり、DA1および5-HT2A受容体拮抗作用をもつリスペリドンがコカインの高体温を抑制するか検討した。リスペリドンはコカインの高体温を有意に抑制した。またリスペリドンのコカインの高体温を抑制する作用機序を明らかにするため、コカインによる高体温をD1, D2, 5-HT1A, 5-HT2A, 5-2B/2C各受容体拮抗薬が抑制するか検討したところ、D1,5-HT2A受容体拮抗薬は有意に抑制したが他の受容体拮抗薬は抑制しなかった。このことからリスペリドンのコカインによる高体温はD1受容体拮抗作用のみでなく5-HT2A受容体拮抗作用も関与していることが明らかとなった。またコカインによる高体温もMDMAやMETHと同様に5-HT神経系の活性亢進が関与してることが証明された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は脳内微小透析法を中心に研究を行う。脳内5-HT,DA,NA測定は同一のラットを用いて行う。測定はHTEC-500マイクロダイアリシスシステム(エイコム社)を用いてラットは無麻酔、無拘束下で行う。Paxinos & Watsonのアトラスに基づいて体温中枢である視床下部に透析プローブを植え込み、24-48時間後に実験を開始する。リンゲル液を1μl/分で灌流し、30分毎に透析液を回収し、直接透析液をHPLCに打ち込み、それぞれの濃度を測定する。ベースラインが安定してきたところで、コカインを腹腔内投与し、それぞれの脳内濃度の上昇率を測定する。またこれらの濃度上昇がリスペリドンにより抑制されるか検討する その後脳内glutamate, NOの測定を行う。glutamate、NOはそれぞれ単独でしか測定できないため別のラットで独立して測定を行う。 リンゲル液を2μl/分で灌流し、15分毎または30分毎に透析液を回収し、直接透析液をマイクロダイリシスシステムHPLC(エイコム社)に打ち込み、それぞれの濃度を測定する。GlutamteはHTEC-500システムの構成を変更することで測定可能であり、NOはエイコム社のENO-20システムに打ち込み測定する。ベースラインが安定してきたところで、コカインを腹腔内投与し、それぞれの脳内濃度の上昇率を測定する。さらにリスペリドンの前投与がこれらの上昇を抑制するか検討する。
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