研究実績の概要 |
重症頭部外傷(TBI)は重篤な疾患であり未だに治療が確立されていない。TBIでは受傷直後に発生する一次性損傷と、その後に惹起される二次性損傷があることが知られている。一次性損傷を抑制することは不可能であるが、引き続きおきる二次性損傷をいかに抑制するかが治療の焦点である。この二次性損傷の重要な要因として、活性酸素種・酸化ストレスが考えられている。本研究では、これまでの成果として以前から報告されているPACAP38の神経保護効果に加えて、PACAP38が頭部外傷3時間後に大脳皮質の抗酸化酵素(Zn,CU-SOD)を活性化し、抗酸化能を高めることが神経保護につながることを突き止めた。その機序の解明について引き続き研究を進めてきた。PACAP38は主に、PAC1受容体・VPAC1・VPAC2を介して作用することが過去の報告からも知られている。PACAPがどの受容体を介して作用するかを確かめるために、PAC1, VPAC2受容体を阻害するPACA6-38とPACAP38を同時に投与し、Western blottingにより大脳皮質の抗酸化酵素(Mn-SOD, GPX-1, HO-2, Zn,CU-SOD)を測定した。結果、あきらかな有意差は認めず、PACAP38はVPAC2受容体を介して作用する可能性が考えられた。 また、将来の臨床応用を考えた場合、実際に脳組織の抗酸化能を測定することは困難である。このため、本研究では頭部外傷後の血漿中の抗酸化能を簡易的に測定でき、実臨床でも使用可能なBAPの測定をおこなった。結果、頭部外傷後3時間からBAPが上昇し、脳内の酸化・抗酸化のバランスとある程度相関することが判明した。
|