研究課題
近年、癌治療において腫瘍血管を攻撃して癌を兵糧攻めにし、癌の血行性転移を抑制する目的で血管新生阻害療法が開発、実用化されてきた。しかし既存の血管新生阻害剤は正常血管内皮細胞を用いた研究から開発され,腫瘍血管への特異性がないことが原因の一つに挙げられる。これまで当教室では腫瘍血管内皮細胞は正常血管内皮細胞と異なることを報告してきており、申請者らは、正常血管内皮と腫瘍血管内皮の分子的な違いを標的とする腫瘍血管特異的な新規血管新生阻害剤の開発が可能ではないかと考えた。腫瘍血管内皮細胞の異常性獲得のメカニズムの一つに腫瘍細胞由来因子による正常血管内皮細胞のDNAメチル化や、ヒストン脱アセチル化などエピジェネティックな異常の関与が示唆される。近年、これらエピジェネティックな異常はmicro RNA(miRNA)とよばれる低分子RNAによって制御されることが明らかになりつつある。さらに申請者らはこれまでの研究で、腫瘍培養上清中に微小胞でつつまれた腫瘍細胞由来のmiRNAが含まれていることを明らかにしてきた。本研究は正常血管内皮細胞と比較し、腫瘍血管内皮細胞に特異的なmiRNAの発現解析を行うとともに、その標的遺伝子の同定および機能解析を行い、腫瘍血管内皮におけるmiRNAを標的とした新規血管新生阻害剤開発と治療応用を展開するための研究基盤の確立が目的である。H25年度は、ヒト腎がん臨床検体から分離培養した正常(非がん部)血管内皮細胞および腫瘍血管内皮細胞をそれぞれ複数Lot用いてmicroRNA microArrayを行い、腫瘍血管内皮細胞で発現の高いmiRNAを数種同定するとともに、その標的遺伝を解析した。今後、それら遺伝子もしくはmicroRNAを標的とした腫瘍血管内皮細胞における機能解析を行っていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
ヒト臨床検体から分離培養できる血管内皮細胞は非常にわずかなポピュレーションであるため、分離後、順調に細胞が増殖するまで時間がかかった。また、アレイ解析の正確性を向上させるため提出サンプルを正常血管内皮細胞、腫瘍血管内皮細胞それぞれ3Lotづつ準備、提出した。さらにアレイで見出した腫瘍血管内皮細胞で発現の高かったmiRNAをマウス/ヒトの正常血管内皮細胞および腫瘍血管内皮細胞を用いてPCR法にて解析を行った。PCRに用いる細胞数を確保するため、マウス及びヒト血管内皮細胞を複数Lot準備するのに時間を要した。しかしながら、当初の計画通りおおむね順調に進展している。
今後はマウス腫瘍血管内皮細胞における標的miRNAの機能解析をすすめ、血管新生阻害効果の有無を検討するとともに、目的miRNAを標的とした血管新生阻害剤のin vivo検討をおこなっていく予定である。
当初H25年度に予定していた腫瘍血管内皮細胞特異的miRNAに対するアンチセンスオリゴを用いた機能解析に着手することができなかったため。またその機能解析の結果をもとにin vivo治療実験へH25年度内に移行する予定であったが、移行できなかったため。予定通り、腫瘍血管内皮細胞における標的miRNAに対するアンチセンスオリゴを用いて、in vitroで増殖能、血管新生能を解析し血管新生阻害療法上有用な腫瘍血管内皮特異的マーカーを見つけ出す.さらにピックアップしたmiRNAで、かつin vitroでノックダウンにより有効な血管新生阻害作用を示したmiRNAを腫瘍血管内皮細胞特異マーカーとして担癌マウスでin vivo実験を行い、腫瘍血管内皮細胞を選択的に障害する治療薬への開発をすすめる.
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