研究課題/領域番号 |
24791962
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉岡 広陽 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 助教 (50523411)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歯胚 / エピジェネティクス / リン代謝 |
研究概要 |
近年,無機リン酸(Pi)がシグナル分子として機能し,Pi 代謝調節因子と協調して,歯や骨における細胞の分化や石灰化に関与することが示唆されている。また,低Pi 血症性くる病や慢性腎臓病など,全身性のPi 代謝異常を伴う疾患では,骨のみでなく歯の形成不全を伴う症例が多く存在する。しかし,歯を構成する細胞局所でのPi 代謝により,どういう細胞内応答(Pi 応答)を引き起こすのか,そしてそれが歯の発生にどう影響するのか,未だ不明な点が多い。そこで本研究課題では,歯の形成およびPi応答について,エピジェネティクスの観点から解明することを目的とする。本年は,エピジェネティクス関連分子の挙動を解析することに焦点を置き,免疫組織化学染色あるいはリアルタイムPCRを用いた発現・局在の解析を行なった。まず,マウス下顎切歯(10日齢)の脱灰切片を作製し,免疫染色によりゲノム全体のメチル化レベルおよびDNAメチル化酵素Dnmt1の局在を解析した。その結果,ゲノム全体のメチル化レベルはエナメル芽細胞,象牙芽細胞ともに分化に伴い上昇する傾向を示した。一方,Dnmt1は上皮―間葉相互作用を示す根尖部に高い発現を示し,その発現は分化に伴い低下した。 Dnmt1はDNA複製の際にDNAのメチル化を維持する酵素であり,基本的には遺伝子の発現抑制に働くことから,細胞分化の促進あるいは細胞周期の抑制に働く遺伝子のメチル化維持(発現抑制)に関与していると考えられる。今後,Dnmt1の標的因子を検索し,上皮―間葉相互作用やPi応答に重要なエピジェネティックなリモデリング機構を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では,本年度中にDnmt1などのエピジェネティックな因子の標的となる遺伝子候補を同定する予定であったが,実際には出来ていない。また,再構成歯胚の実験系の確立を行なう予定であったが,これも思うように進行していない。その理由としては,技術的に困難なことが多いからであるが,ひとつずつ問題点は解決しているので,大きく実験計画を変更する必要はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
近年,エピゲノムの状態が物質代謝や栄養,食事など多くの環境因子に影響を受けることが判明し,生活習慣病への関与が注目を集めている。特に,胎児期の低栄養環境が腎糸球体ネフロン数の減少を引き起こし,成人期における慢性腎臓病等の疾患の素因となることが知られている。慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常も誘発されると考えられ,歯や骨に悪影響を及ぼすことは想像に難くない。今後,歯の形成に伴うエピジェネティクス制御を明らかにし,またそれに伴うPi代謝調節機構を明らかにし,栄養や環境因子が歯牙病態に及ぼす影響を明らかにしていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25 年度は平成24 年度の研究費未使用額と合わせて,これまでの継続と得られた個々の結果の統合的および機能的解析に研究費を使用する。具体的には,エピジェネティクス関連因子を標的とするsiRNAを用いたノックダウン実験を行う(siRNA関連試薬 約25万円)。siRNAを上皮細胞あるいは間葉系細胞へ導入し,その細胞由来の再構成歯胚を器官培養あるいはマウス腎臓被膜下への移植により発育させる(マウス飼育管理 約25万円,培養関連試薬 約20万円)。リアルタイムPCR を用いた分化マーカーの発現解析および形態学的解析により再構成歯胚の形成状況を確認し,上皮―間葉相互作用を介したエピジェネティクス制御機構を明らかにする(形態学的解析試薬 約15万円,エピジェネティクス解析試薬 約25万円,分子生物学関連試薬 約25万円)。その他,得られた研究成果を国際学会および国内学会にて発表する旅費として研究費を使用する(旅費 約25万円)。
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