味覚の末梢の受容器である味蕾は、常に多様な刺激をうける舌上皮に存在しているために約10日の短い周期で味蕾を構成する細胞が入れ替わる。味蕾の細胞は味神経とシナプスを形成しており、この味蕾細胞―味神経間の分子機構も10日程度で改変を繰り返し行っていると考えられるが、この機構に関しては現在のところ未解明のままとなっている。本研究は、この未解明な味蕾内における神経接続の切断、再接続の繰り返し機構を「軸索誘導分子群」という切り口で明らかにしようとするものである。この機構が明らかになると、薬剤開発などの展開が期待でき、現在のところあまり有効な治療法がなく、食事の楽しさといったQOLの大きな部分を失う味覚障害の治療の糸口になると考えられる。 軸索誘導分子群の中で味蕾に発現が認められ、学会発表をおこなってきたNetrin-1についてはその発現細胞、発現様式などをまとめて投稿準備中である。Semaphorinをはじめとするその他の軸索誘導分子群については、RT-PCRにおいては味蕾に発現が認めたが、免疫組織化学、in situ hybridizationではまだ安定した実験結果が得られていない。引き続き、実験手法の改良を行っていく必要がある。また味蕾において発現がみられたNetrin-1は軸索誘導分子としての機能以外にアポトーシスに関連するという報告がある。そのためマウスの舌咽神経を手術で切断し、味蕾の消失に伴う味蕾細胞のアポトーシス過程においてNetrin-1がどのように関わるかをアポトシースのマーカーとNetrin-1とで形態学的に解析を行っているが、まだ明らかな結果は得られておらず実験を継続中である。
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