研究課題/領域番号 |
24791971
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研究機関 | 日本歯科大学 |
研究代表者 |
河原井 武人 日本歯科大学, 生命歯学部, 講師 (90409079)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ペルオキシダーゼ / Escherichia coli / 呼吸鎖 |
研究概要 |
過去の研究により、侵襲性歯周炎原因菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansから発見された新規のヘムcを有する細胞膜結合型キノールペルオキシダーゼ(QPO)は、本菌の過酸化水素耐性及び毒素産生に密接に関わっていることが明らかになった。病原微生物における過酸化水素除去機能は、宿主の免疫機能からの防御および自身の呼吸鎖エネルギー代謝系の副産物除去の面から感染成立に重要な因子であると考えられる。従って、このQPOは病原細菌の新たな薬剤ターゲットとなり得る。 興味深いことに、Escherichia coli (K12及びO157:H7) は基質となるシトクロムcをもたないにも拘らず、QPO相同遺伝子であるyhjAをもっている。このyhjAに関する論文はPartridgeらによって2007年に報告されたものだけであり、欠損させることにより嫌気下における外因性H2O2耐性が低下すること、また酸素応答に関与するFNR及びOxyRによって発現制御されていることしか明らかになっていない。即ち、YhjAは大腸菌において発現し表現型に影響することは明らかであるが、未だ単離・精製されておらず、その機能や構造については解っていない。 そこで本研究は、QPOホモログであるYhjAをもつEscherichia coli K12株及びO157:H7株を材料として基礎的な解析を行い、本酵素の大腸菌における生理的意義及び病原性との関連について明らかにすることを目的とした。 本年度においては、E. coli YhjAの過剰発現系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度においては、まずE. coli YhjAの過剰発現系構築を行った。発現及び精製手法に関しては、当講座において行われた組換えQPOの発現・精製方法を基盤として行った。しかしながら、QPOと同様の方法では安定した過剰発現が得られなかったため、各種培養条件を検討し一部改変を加えることにより、下記のような過剰発現系を構築した。 供試菌株として、ペリプラズム性プロテアーゼDegPを欠損したE. coli Keio::JW0157 (DE3) 株を用いた。YhjAの過剰発現は、T7プロモーター支配下にyhjA遺伝子をクローン化したプラスミドを構築し、IPTG添加誘導により行った。また、YhjAのアミノ酸配列解析から、本タンパク質はヘムc結合サイトを3つ持つと予測されたため、シトクロムcの成熟化に関わる遺伝子群であるccmA-Hオペロン全長を持つプラスミドを構築し、両プラスミドを移入した株を作製した。さらに、ヘムcの前駆体であるγ-アミノレブリン酸を培地に添加することで安定した過剰発現が観察された。 申請書においては、今年度中にYhjAの精製法を構築する予定であったが、上記のように過剰発現系の確立に時間を要したため、現在精製法の構築を行っている。また、部分精製標品であるが、YhjA過剰発現試料においてユビキノール-1を基質として過酸化水素を水に還元する活性が観察された。即ち、E. coli YhjAはA. actinomycetemcomitansのQPOと同様にキノールペルオキシダーゼ活性を持つことが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
過剰発現系が構築でき、部分精製標品にキノールペルオキシダーゼ活性があることを確認できたことから、現在組換えYhjA精製法の構築中である。精製手順に関しては下記のように、当講座において行われた組換えQPOの精製方法を基盤に行っている。 フレンチプレス法により回収したE. coliの膜画分を界面活性剤SM-1200を用いて可溶化し、カラムクロマトグラフィー(ハイドロキシアパタイト、DEAEなど)によって精製を行い、最終的に>95%精製標品を調製する。なお指標として、SDS-PAGE、ヘム染色、吸光度測定(412 nm:シトクロムcのSoret吸収帯)、キノールペルオキシダーゼ活性測定を各精製処理後に行い、精製効率を算出する。 精製法を確立し次第、YhjAの生化学的解析及び構造解析を行い、同時に阻害剤の探索を行う。さらに、A. actinomycetemcomitans QPOの阻害剤が本菌の毒性因子leukotoxinの分泌を著しく阻害することが既に明らかになっていることから、E. coli O157:H7が持つleukotoxinホモログであるHlyAの分泌が当該薬剤により阻害されるか否かを確認する。以上の検討により、E. coli YhjAの機能及び構造の解明し、また細胞膜結合性ペルオキシダーゼを標的とした新たな薬剤を見出す予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度同様25年度においても、プラスチック・ガラス器具、組換えDNA実験試薬などの消耗品、特に培養関連試薬を中心に多くの経費を計上している。また、平成25年度においてはQPO阻害剤のスクリーニングに用いる化合物ライブラリーに300千円を算定した。研究成果は積極的に学会発表及び誌上発表する予定であり、それらは平成25年度の消耗品項目の論文別刷り、また国内・国外旅費項目の研究打ち合わせ旅費、成果発表に算入した。 なお、全体の研究経費のうち、90%を超える、もしくは特に大きな割合を占めるような経費項目はない。
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