研究課題
これまでプラーク染色剤に含まれる光感受性物質(ローズベンガル、エリスロシン、フロキシン)を用いた光線力学殺菌法の一重項酸素生成を介した殺菌効果を実証し、歯科治療あるいは予防に応用できる可能性を示してきた。さらに、ポリフェノール(プロアントシアニジンや没食子酸など)に対する青色可視光照射によっても水酸化ラジカル生成を介した殺菌作用を得られることを報告してきた。平成25年度は、これらの知見に基づいて、ポリフェノールの1種として分類されており、かつ光感受性物質として考えられているクルクミンを用いた光線力学殺菌技術に関して、殺菌活性と活性酸素生成の観点から詳細な検討を行い、殺菌メカニズムの解明を試みた。クルクミンの吸光スペクトルのピークは428nmであるので、本実験での光源としては405nmのレーザーを用いた。クルクミンは最終濃度10µMで用いた。殺菌試験では虫歯の原因菌であるStreptococcus mutansをを用い、細菌を生理食塩水に懸濁しクルクミンと混和後、放射照度450 mW/cm2で60秒間レーザー照射を行った。結果として、6-log以上の細菌数の減少が認められた。一方、レーザー照射を行わない場合にはクルクミンによる殺菌作用は認められなかった。次に、電子スピン共鳴分析法および蛍光発光分析法を用いてクルクミンに対するレーザー照射で生成される活性酸素の定性、定量分析を行った。分析の結果、一重項酸素の生成は認められず水酸化ラジカルの生成が認められた。したがって、クルクミンによるレーザー照射で得られる殺菌作用はポリフェノール構造に由来することが示唆された。クルクミンを含むポリフェノールは種々の食品中にも含まれる物質であり、安全性が高く残留毒性が低いといった利点を有している。また殺菌活性もPDTと同等以上であるので、新しい殺菌法としての歯科応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究を遂行する中でポリフェノールを応用した新しい光線力学殺菌療法の可能性を発見し、研究目的を少し修正しながら進めているが進展状況としてはおおむね順調であると判断している。プラーク染色剤およびポリフェノールを用いた光線力学療法に関する活性酸素生成反応とそれに伴う殺菌活性が明らかとなってきている。今後、動物試験による安全性の検証を行うことで、より効果効能と安全性の面から歯科応用に適した方法を探索していく。
最終年度は殺菌活性が最も効率的に得られる条件を決定するため、光感受性物質やポリフェノールの濃度、光源波長、処理時間を検討する。次にそれらの結果に基づいて当初より計画していたラットの創傷モデルを用いた安全性と治療効果の検証を行う。本年度前期はin vitro試験を行い、後期にin vivo試験を実施する計画を立てており、9月ごろをめどに本学の動物試験専門委員会に申請する予定である。これらの試験を通して歯科応用に向けた基礎的知見蓄積を行う。
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