プラーク染色剤に含まれる色素は光増感作用を有しており、特定波長の光によって励起される。励起された色素が基底状態に戻るときに、活性酸素の一種である一重項酸素が生成される。一重項酸素は強い酸化力を有しており、細菌に作用することで殺菌作用を示す。さらにこれまでの研究でポリフェノール水溶液に対して光照射を行った場合にも殺菌作用が得られることが分かってきている。平成26年度は、プラーク染色剤を用いた光線力学殺菌療法よりも生体安全性が高いと考えられるポリフェノール光照射殺菌法をより詳細に調べた。天然由来のポリフェノール6種類を用いて、グラム陽性菌3種類、グラム陰性菌3種類に対する殺菌効果の比較を行った。その結果、没食子酸、カフェイン酸、クロロゲン酸、プロアントシアニジンが強い殺菌作用を示した。また、グラム陽性・陰性に関わらず殺菌効果が得られることが分かった。さらに、電子スピン共鳴法による分析の結果、一重項酸素の生成はいずれのポリフェノールでも認められず、代わりに水酸化ラジカルが生成していることが分かった。生化学分析の結果、脂質過酸化およびDNAの酸化傷害が殺菌作用の主体であることが示唆された。このように従来の光線力学殺菌療法とは異なるメカニズムで殺菌効果が得られていることから、従来の光線力学殺菌療法との併用により相乗効果が得られることも期待できる。今後バイオフィルムに対する殺菌効果の検証が必要であるが、本研究はポリフェノールに対して光照射を行うことで得られる殺菌作用が、歯科における新しい光線力学殺菌療法となる可能性を示唆した。
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