研究課題
慢性疼痛時に使用される強力な鎮痛薬であるモルヒネは継続的に使用することにより、逆に鎮痛効果の減弱あるいは疼痛が生じる。この時、脊髄ミクログリアが活性化されているのだが、その制御機構が不明であった。本研究により、モルヒネの作用点であるμ受容体を介して、cytosolic PLA2の発現が亢進することが明らかとなった。これはアラキドン酸を合成するのであるが、ミクログリアに存在するBKチャネルを選択的に活性化した。一方で神経でのBKチャネルには影響がなかった。アラキドン酸カスケードにかかわる種々の阻害剤(NS398、インドメタシン、Zileuton、Baicalein)の存在下ではモルヒネによるミクログリアでのBKチャネルの活性化は有意に抑制された。動物モデルにて脊髄腔内へのBKチャネル阻害剤を投与することで鎮痛耐性あるいは疼痛が著明に抑制された。モルヒネによる鎮痛耐性あるいは疼痛におけるミクログリアのBKチャネルの特異性を検討するため、モルヒネで刺激したミクログリアを脊髄に移植し、その後モルヒネを経日的に動物へ投与した。その結果、正常ミクログリア移植群に比べ、モルヒネ刺激ミクログリア移植群では鎮痛耐性あるいは疼痛がより早期に生じることが明らかとなった。一方、BKチャネル阻害剤存在下でモルヒネ刺激をした場合、前述の現象を遅延した。BKチャネル阻害剤によるミクログリアに対する作用を検討したところ、モルヒネ投与後に発現上昇する炎症性サイトカインであるIL-1bをBKチャネル阻害剤が有意に抑制した。以上の事からミクログリアのBKチャネルがミクログリアの活性化状態のon-offに関わっているのではないかと示唆される。上記の結果により、疼痛だけでなくミクログリアの関与する種々の脳疾患に対してミクログリアBKチャネルへのターゲットが有用性を示すことを示唆する基盤的成果となった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画としていた三叉神経痛モデルとは少々動物モデルが異なるものの、当該研究課題であるミクログリアにおけるイオンチャネル解析の面で、疼痛に関与する因子およびそのメカニズムを明らかにすることができた。そのため研究としては順調に成果を出しているものと考える。
これまでの研究にて大きな疑問点が一点ある。通常、BKチャネルが活動するためには1)細胞内のカルシウム濃度、2)細胞の脱分極が必要である。しかしながら、興味深い事に活性化ミクログリアは細胞内カルシウムfreeの条件にてもBKチャネルを介した電流の活性化を生じる。一方で、正常状態ではこれらは認められない。そこで、これらの反応様式がどこから生じるのかまた、どのように制御されるのか解析を行う。これを解決する方策として、BKチャネルのsplice variantの観点から、電気生理学的に解析する予定である。
実験過程において新たに未解決課題が生じた。そのため本課題を解決するために、計画的に使用額を削減し、次年度での研究に充てる事を考えた。イオンチャネルのスプライスバリアントの解析のため、強制発現系のシステムを用いる。そのため、新たな培養細胞の導入あるいはsiRNAの作成へと差分の使用額を充てる。また既請求分に関しては当初目的としていたBKチャネルの抑制効果を有する物質のハイスループットスクリーニングを行う目的で使用する。
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