近年、線維芽細胞と血球系細胞の両方の性質をもつ線維細胞(fibrocyte)と呼ばれる細胞の関与が肺や腎臓、心臓の線維化において報告されている。そこで本研究は顎関節部での線維性癒着および瘢痕化に対し、in vivo イメージングにおいてより正確にトレース可能なfibrocyteを蛍光色素強発現トランスジェニックマウスから採取し、顎関節部に炎症性病変を惹起させた非蛍光マウスの体内に移植後そのホーミング機構ならびに炎症部位での動向を観察することで顎関節におけるfibrocyteの関与とその分子メカニズムについて明らかにすることを目的とした。平成26年度は「顎関節部位でのfibrocyteの分化・活性化における分子メカニズム(ケモカイン/ケモカイン受容体の同定など)の解明」を目的とした。これまで精度の高いfibrocyteの単離・培養に取り組んできたが、in vivoイメージングに使用できるほどの精度および収量を獲得することが難しかった。また安定して顎関節炎を発症するモデルマウスの作製にも時間を要した。そのため平成26年度はfibrocyteと一部同じような性質をもつ単球/マクロファージ系細胞株とEGFP強発現マウスから顎関節周囲組織由来細胞(TMJSCs)を獲得しin vitroにおいて顎関節周囲組織由来細胞と血球系細胞が顎関節部での炎症時に及ぼす相互作用について解析した。その結果TMJSCsがIL-1betaで刺激されると単球/マクロファージ系細胞のTMJSCsへの接着性が促進され、さらにこの2種の細胞が直接的な接触関係をもつによって炎症性細胞を炎症部位に誘導するケモカインの産生量が増加した。このケモカインに対する受容体はfibrocyteも発現していることが報告されており、本研究成果から顎関節の線維性病変に関してfibrocyteが関与している可能性は十分に示唆される。
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