研究課題
本研究の目的は、糖尿病などの糖代謝異常疾患に続発して生じる二次性骨粗鬆症の病態形成におけるモノカルボ ン酸トランスポータ(monocarboxylate transporter:MCT)の役割を明らかにし、MCTを標的とした新たな骨粗鬆症 の予防・治療方法の開発の可能性を探ることにある。平成24年度は培養骨芽細胞を用いて、MCTによる骨芽細胞分化調節メカニズムについて解析した。MCTは細胞膜・ミトコンドリア内膜に分布するタンパク質で14種類のサブタイプが報告されている。マウス頭頂骨より単離した初代培養マウス骨芽細胞およびBMP-2で骨芽細胞分化を誘導できるマウス筋芽細胞株C2C12細胞を用いて、MCTサブタイプのmRNA発現をRT-PCR法により比較解析したところ、両者においてMCT-1のmRNAが安定して発現していた。糖尿病などの糖代謝異常疾患のin vitro実験モデルとして、マウス初代培養骨芽細胞および筋芽細胞株C2C12細胞を培地中のグルコース濃度を変えて培養した。筋芽細胞株C2C12細胞は低グルコース環境において、BMP-2刺激後のアルカリホスファターゼ(ALP)陽性細胞の出現が強く抑制された。この時のALP mRNA発現をRT-PCR法で解析したところ、低グルコース環境ではALP mRNA発現は抑制されていた。また、siRNAを用いてMCT-1 mRNA発現を抑制したC2C12細胞では低グルコース環境だけでなく、通常のグルコース濃度においてもBMP-2刺激後のALP陽性細胞の出現は強く抑制された。このことから、BMP-2刺激による骨芽細胞分化誘導には一定量のグルコース濃度が必要であり、その代謝産物がMCT-1を介し骨芽細胞分化に関与すると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究から、BMP-2を用いたC2C12細胞の骨芽細胞分化誘導において、培地中のグルコース濃度が非常に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。糖尿病に代表される糖代謝異常疾患に続発して生じる骨粗鬆症などの骨代謝疾患の原因が骨芽細胞のグルコース代謝の変化によるものであるとの仮説が裏付けられたと考えられる。また、細胞質における解糖系からミトコンドリアにおける好気呼吸への中心的な輸送経路であるMCT-1の存在も骨芽細胞分化に必要であることも明らかとなった。これらの今年度に得られた知見は国内の学会で発表し、一定の評価を得たと認識している。しかし、MCT-1が輸送する物質はグルコースではなく乳酸やピルビン酸などのモノカルボン酸であるため、グルコースとMCT-1を結びつける代謝産物が何であるかは今のところ不明であり、現在解析を続けている。また、in vitroにおける実験系では一定の結果が得られているが、糖尿病などの疾患モデル動物を用いたin vivoにおける実験系では、未だ十分な知見が得られていない。次年度は引き続き、骨芽細胞分化に影響を及ぼすグルコース代謝産物の探索をするとともに、モデル動物におけるグルコース代謝産物と骨代謝回転の変化について解析を行う予定である。
MCT-1を介し、骨芽細胞分化を促進させる物質の探索を引き続き試みる。解糖系の中心的経路であるエムデン・マイヤーホフ経路を始め、エントナー・ドウドロフ経路、ペントースリン酸経路、メチルグリオキサール経路などの傍流とされる経路で生じる中間代謝産物を、BMP-2でC2C12細胞を刺激し骨芽細胞分化を誘導するin vitro実験系に添加し、アルカリホスファターゼ活性ならびに骨芽細胞分化マーカーの遺伝子発現に及ぼす変化を解析する。また、高グルコース環境下と低グルコース環境化におけるBMP-2刺激後の細胞内シグナル伝達経路の活性化の違いについてWestern blot法で解析する。in vitro実験系で骨芽細胞分化が変化した物質について糖尿病モデルマウスあるいは骨粗鬆症モデルマウスなどの疾患モデル動物に投与し、グルコース代謝産物のin vivoにおける骨代謝状態改善効果について検討する。また、上記の実験で得られたグルコース代謝産物とともにMCT-1阻害剤を糖尿病モデル動物に投与し、骨代謝状態を変化について組織学的に解析を行う。
消耗品としては次のように、各種物品および動物を購入する。MCT-1阻害剤あるいはグルコース代謝産物を投与する糖尿病モデルマウスならびに野生型マウスが必要となる。そのため、マウスの購入および飼育のための経費を必要とする。また、in vitroの細胞培養実験を行うために、培地、血清および抗生物質などの添加物や細胞培養皿などの器具を購入する必要がある。骨芽細胞分化を誘導するためのサイトカインであるBMP-2、MCT-1の阻害剤ならびにMCT-1の遺伝子発現を抑制するsiRNAを購入する。骨芽細胞分化マーカーの遺伝子発現を解析するためにRNA抽出試薬、逆転写酵素、RT-PCR試薬、電気泳動用試薬および器具が必要である。細胞内シグナル伝達の変化をWestern blotで解析するために各種抗体や発光試薬を購入する。また、研究結果を発表し、かつ情報を収集するために国内学会に参加する旅費を必要とする。
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PLos ONE
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Biochem Biophys Res Commun
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http://www10.showa-u.ac.jp/~oralbio/