シェーグレン症候群(以下SS)患者の末梢血B 細胞では、過剰な活性化や形質細胞への分化が認められている。アダプター分子Act1はB細胞の分化、生存、増殖に重要な役割を果たしているサイトカインBAFFの受容体の一つBAFFRに結合する。また、CD40とも結合し、CD40・BAFFR signalingで抑制的に働くことで、B細胞の過剰な活性化や自己抗体産生を制御する役割をもつと考えられる。そのAct1ノックアウトマウスは 抗原依存的・非依存的なB細胞の活性化を引き起こし、ドライアイ、涙腺・唾液腺腫脹や唾液腺へのリンパ球浸潤、唾液分泌低下、SS-A 抗体値・血清IgG 上昇、などSS に類似した臨床、病理所見、免疫異常を呈することより、Act1 はSS のモデルマウスと考えられる。そこでSS 患者の末梢血B 細胞におけるAct1 発現とSS の病態生理に関連が認められるかを検討した。 本研究ではSS 患者末梢血B 細胞cDNAにおいて、RT-PCR法でAct1mRNA 発現の解析を行った。その結果、SS患者群では、健常人に比べ発現が有意に低下しており、その相対的発現量は血清IgG 値と逆相関していることが明らかとなった。このことより、Act1発現の低下がCD40・BAFFR signalingの抑制をもたらし、B 細胞の生存および分化促進と自己抗体産生が生じSS の病態形成に関与する可能性が考えられた。 さらに、Act1発現のSSにおける唾液腺炎の病態との関連を検討するために、SS診断時の口唇生検で採取した患者口唇腺を用いて、免疫染色法にて唾液腺浸潤細胞の組成を解析した。その結果、現時点ではAct1発現と唾液腺浸潤細胞数との相関は現時点では認められていないものの、Act1発現の低い患者の唾液腺における浸潤細胞には活性化B細胞や形質細胞が多い傾向が確認されている。
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