本研究は、内因性リガンドとしての飽和脂肪酸の唾液腺上皮細胞に対する作用の解明を目的とする。疫学研究において、糖尿病などの代謝関連疾患と、唾液腺および涙腺に慢性炎症を伴う臓器特異的自己免疫疾患であるシェーグレン症候群との関連性を示した報告はあるが、これを裏付ける基礎的データはない。これをふまえ、本研究では、1.唾液腺上皮細胞の飽和脂肪酸刺激に対する炎症性シグナル伝達機構の解析、2.飽和脂肪酸による炎症反応に対する球状アディポネクチンの炎症反応抑制効果、を解析し、以下の知見を得た。 1.(1)2種類のヒト唾液腺上皮細胞株において、飽和脂肪酸の一つであるパルミチン酸刺激により、炎症性サイトカインの一つであるinterleukin(IL)-6が濃度、時間依存的に産生された。(2)もう一つの飽和脂肪酸であるステアリン酸刺激でもIL-6産生が誘導されたが、不飽和脂肪酸にはこの様な効果はなかった。(3)パルミチン酸刺激によるIL-6産生は、p38MAPKおよびNF-kB依存性であった。(4)パルミチン酸刺激によりアポトーシスおよびalpha-fodrinの断片化が誘導された。(5)(1)-(4)の反応は、ヒト口腔扁平上皮癌細胞株およびヒトケラチノサイト細胞株では誘導されなかった。 2.パルミチン酸刺激によるIL-6産生を、球状アディポネクチンで抑制することができたが、全長アディポネクチンでは抑制できなかった。 以上の結果より、血清中のパルミチン酸がシェーグレン症候群を代表とする慢性唾液腺炎の病態を増悪し、球状アディポネクチンがそれを抑制できる可能性が示唆された。
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