研究概要 |
これまで微量な線量の放射線影響は検出が困難であったが、このようなごく低線量の放射線照射による細胞応答を定量PCR法を用いた遺伝子発現変化を指標として検出を試みた。ヒト神経芽細胞腫NB1およびSK-N-SHを培養し、細胞に0.1, 1, 10, 100 mGyのX線照射を行い、照射後30分と2時間で細胞を回収、RNAを抽出した。これらのRNAを用い、予備的なDNAアレイ法による実験で変化した遺伝子について現有のABI社ABIPRISM7000により、SYBR Greenを用いた定量PCRを行った。その結果、NB-1細胞においてはTCA Cycle に関与するIDH2, ネクローシスに関与するCyp40, アポトーシスに関与するAIF, BAx, MnSOD, p53, VDAC1, 解糖系遺伝子であるPFKL, ヒートショックタンパク質であるHSPA6, BIPの10遺伝子について非照射サンプルに比べて有意な遺伝子発現の差が見られた。有意に変化した遺伝子発現に関して、p53に関しては、10mGyおよび100mGy照射において、照射後30分、2時間後ともに遺伝子発現が有意に活性化されていたが、それ以外の遺伝子については非照射サンプルに比べ発現が抑制されていた。さらに、これらの10遺伝子に関して、SK-N-SH細胞においても同様に有意な発現の差が見られるか調べたところ、同じような遺伝子発現変化の傾向は見られたものの、有意な差は見られなかった。以上より、低線量放射線照射に応答して発現が変化する遺伝子の存在が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度の研究実施計画は、低線量X線照射(0.1, 1, 10, 100 mGy)により発現変化をきたす遺伝子群を明らかにする。という予定であった。実際には、研究実績概要にあるとおり、NB-1およびにSK-N-SH低線量X線を照射し、これら細胞よりRNAを抽出し、定量PCRを行うことにより、NB-1細胞において非照射サンプルに比べ有意に発現の差が見られる遺伝子が存在することを見いだした。また、この低線量放射線照射による遺伝子発現変化は、SK-N-SH細胞では同様の傾向は見られたものの、有意な差は見られなかった。これらのことから、細胞の種類により低線量放射線照射による細胞応答が異なることも明らかとなった。以上より研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
24年度の結果より、低線量放射線照射により発現の変化する遺伝子を明らかとすることができた。25年度は、遺伝子発現ではなく、ミトコンドリアDNA障害についての検出をTaqMan probeを用いた高感度突然変異率検出法を用いて行う。具体的には、24年度と同様に細胞を培養後、低線量X線(0.1, 1, 10, 100 mGy)の照射を行い、照射後、30分または2時間で細胞を回収し、DNAを抽出する。mtDNA突然変異率検出に関しては、突然変異が起きると重篤な症状を示す変異を検出できるようTaqMan プローブ/プライマーのセットを設計、注文する。次に野生型及び突然変異型のDNAを持つ細胞株(現有)を培養後、細胞からDNAを抽出する。抽出したそれらDNAを混ぜ合わせ、突然変異型の比率を0-100 %まで変化させたDNA (合計各10 ngずつ)を準備する。これらDNAを野生型または突然変異を認識する2種類のTaqMan probeとともに定量PCRし、その結果より0-100%突然変異率の標準曲線を得る。0.1, 1, 10, 100 mGyを照射した細胞から抽出したDNAを用いて同様にTaqMan probeを用いた定量PCRを行い、その結果と標準曲線よりX線照射によるmtDNAの突然変異率を求め、低線量放射線照射による細胞応答を検討する予定である。
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