研究課題
若手研究(B)
がん幹細胞は①高い造腫瘍能を示す、②自己複製能を有する、③多分化能を有する癌細胞分画と定義される。我々は、口腔扁平上皮がん株からがん幹細胞分画を ALDH1high 細胞として分離し、ALDH1high 細胞に高発現する分子として同定されたSmall proline-rich protein 1B (SPRR1B)の分子メカニズム解析を進めている。ALDH1high 細胞において、SPRR1B遺伝子発現が高く、造腫瘍能が高い事から、細胞増殖に関わるシグナルであるMAPKシグナルを調べた。その結果、ALDH1high 細胞において、有意に活性化型(リン酸化型)ERKの亢進を認め、ALDH1high 細胞における細胞増殖を更新している可能性が示唆された。また、本研究において、ALDH1high 細胞が口腔扁平上皮癌細胞株のみならず、口腔扁平上皮癌組織においても検出可能か、抗ALDH1モノクローナル抗体を用いて口腔扁平上皮癌組織を免疫染色し、検討した。その結果、口腔扁平上皮癌組織で、は0%~最高40%の発現を認めた。また、ALDH1高発現症例では、ALDH1低発現症例と比較して有意に頸部リンパ節転移が高かった。この結果は、臨床症例においてもALDH1high 細胞が転移に関わっている事を示唆するものであり、ALDH1high 細胞をがん幹細胞の研究ソースとして用いる有効性および有意性を示す。これらの研究結果は、ALDH1high 細胞が培養細胞のみならずヒトがん組織においてもがん幹細胞マーカーとなりうることを支持する重要な結果と考える。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、がん幹細胞におけるSPRR1Bの機能解析を目的としている。平成24年度において、SPRR1B発現ベクターの構築、SPRR1B過剰発現細胞株の樹立、SPRR1B特異的 siRNA のデザインを行った。また、免疫不全NOD/SCIDマウスにおける造腫瘍能評価系安定して機能した。これらの研究ツールは、SPRR1Bの分子機能解析を進めるう上で非常に有用な手段になると考えられる。
がん幹細胞は高い造腫瘍能を示すと同時に、化学療法や放射線といった既存のがん治療に対して抵抗性を有することが知られている。本研究においてはSPRR1BのMAPKシグナルを含めた分子生物学的な機能解析を進める予定である。また、臨床上問題点となる治療抵抗性や、がんの遠隔転移等とSPRR1Bとの関連性についても検討を進めたいと考えている。具体的に、SPRR1B過剰発現細胞株や、SPRR1Bノックダウン細胞で、治療抵抗性や遠隔転移モデルを用いて評価を予定する。
平成25年度においては、in vivo 評価系をさらに進める為に、実験動物 (NOD/SCIDマウス)の購入を予定している。また、SPRR1Bの造腫瘍能における分子メカニズムを解明するために、遺伝子発現アレイ、定量的PCRなど分子生物学的なアプローチを行い、SPRR1Bの機能解析を進める。来年度はNOD/SCIDマウスを多く使う実験を予定しているため、今年度の研究費残額をマウス購入やFBS等の消耗品にあてる。
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Pathol Int
巻: 62 ページ: 684-9
10.1111/j.1440-1827.2012.02851.x