研究課題
がん幹細胞は①高い造腫瘍能を示す、②自己複製能を有する、③多分化能を有するがん細胞分画と定義される。我々は口腔扁平上皮がん幹細胞における高い造腫瘍能(腫瘍起始能)の分子メカニズム解明を進めている。口腔扁平上皮がん細胞株から、がん幹細胞分画をALDEFLUOR法を用いて ALDHhigh細胞として分離した。ALDHhigh細胞は高い造腫瘍能を示し、がん幹細胞が濃縮されていることが確認された。次に、がん幹細胞に発現する遺伝子群をcDNAマイクロアレイ法にスクリーニングした結果、Small proline-rich protein 1B (SPRR1B) が、がん幹細胞に有意に発現することを見出した。SPRR1B過剰発現がん細胞株では、in vitro における細胞増殖能の亢進が観察された。また、逆に siRNA にてSPRR1Bをノックダウンしたがん細胞株では細胞増殖能の抑制がみられた。SPRR1B過剰発現およびノックダウン細胞の遺伝子発現をマイクロアレイにてスクリーニングした結果、SPRR1Bはがん抑制遺伝子の一つである RASSF4 発現を抑制することが見出された。RASSF4 がRAS-MAPK シグナルを抑制する。すなわち、がん幹細胞においてはSPRR1Bが過剰発現することにより、RASSF4発現を抑制し、RAS-MAPKシグナルを亢進することにより、細胞増殖能が亢進していることが示唆された(BBRC 2013)。本研究結果は、口腔扁平上皮癌幹細胞の増殖能を分子レベルで解明するきっかけになると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究において、口腔扁平上皮癌幹細胞の細胞増殖に関連する分子群の解析を進めている。SPRR1BがRAS-MAPK シグナルを介して、口腔扁平上皮癌幹細胞の細胞増殖に関与する事を明らかとした。また、平成25年度中には、これらの研究結果を論文発表することが出来、大きく研究が前進したと考える。
これまでの研究結果から、SPRR1BのsiRNA によるノックダウンにより、RAS-MAPKシグナルを介して細胞増殖を抑制することが示された。しかしながら、siRNA は一過性の遺伝子発現抑制であり、完全な遺伝子欠失形質を観察出来る訳ではない。そこで、SPRR1B分子機能を詳細に検討する為に、平成26年度には、SPRR1B遺伝子ノックアウトシステム構築を目指す。すなわち、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を用い、SPRR1Bコンディショナルノックアウト細胞を作製を目指す。また、ノックアウト細胞作製により、これまでの検討では困難であった免疫不全マウスを用いた in vivo の造腫瘍能の検討を予定する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 439 ページ: 96-102
10.1016/j.bbrc.2013.08.021.