口腔癌は頭頸部領域で最も発生頻度の高い悪性腫瘍であり、未だ約30%の症例に再発がみられ予後は十分に改善されたとは言えない。口腔癌を含む上皮系癌の高度悪性形質獲得には多くのメカニズムが働くが、癌細胞EMT はそれらの中でも中心的な役割を果たすと考えられている。近年、上皮系癌の進展にも極めて密接な関連をもつことが明らかにされつつある。癌細胞がEMT に陥ると、遊走能、浸潤・転移能、治療抵抗性および幹細胞様形質を獲得し、アポトーシスと細胞老化に抵抗性となることが知られている。 研究代表者が所属する研究室は、口腔癌細胞EMT 関連分子の発現とその制御機構を中心に解析を行ってきた。その中で、予後が不良な症例の浸潤先端部癌細胞がHMGA2 を高頻度に発現し、細胞分化マーカーの消失と関連していることを明らかにした。また、細胞が発現する内在性転写因子の結合部位を同定する方法(conChip法)を開発し、その方法を用いHMGA2がZICファミリーとの関連性に着目した。悪性腫瘍組織におけるZIC ファミリーの発現の有無については少数の検討が行われているが、その結果は大きく異なり、上皮系癌細胞の表現型と癌の進展に与える影響を検討した研究はない。そこでHMGA2がどのようにZICファミリーに影響を与え、その結果がどうEMTに結びつくかを検討した。 その結果、conChipによりHMGA2がZIC1とZIC4に挟まるプロモーター領域に結合することが分かった。さらに結合部位を精査し、HMGA2はZIC1遺伝子の発現に関与することが示唆された。このことからHMGA2自身は遺伝子転写活性を持たないがZIC1/4のプロモーター領域に結合することにより、遺伝子プロモーターの構造を変化させる事が示唆された。さらにHMGA2はZIC1遺伝子プロモーターに直接結合することにより目的遺伝子の発現を制御することを示唆した。
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