骨髄抑制を伴う抗がん剤治療等で易感染状態に陥る患者は,多種多量の抗生剤による感染管理が行われるが,抗菌剤耐性菌による感染症管理で困難を伴うことが多い。医科の治療前に歯内療法等をはじめとする口腔内感染巣の除去等,歯科治療を行うことは,抗菌剤 耐性遺伝子の物理的な除去に繋がっている可能性がある。易感染性患者を対象とした歯内療法等の歯科治療の重要性を示すエビデンスを,口腔内細菌の抗生剤耐性遺伝子の保有状況という切り口で打ち出すことを目的として,研究を進めた。 申請者らは,日々の臨床の一環として,造血器腫瘍を中心とした血液疾患患者を対象に根尖性歯周炎等の歯性感染巣除去および管理を行っている。この際に,感染根管から細菌サンプルの採取を行った。また,造血幹細胞移植期に病棟往診を行う中で,口腔粘膜上から細菌サンプルの採取を行った。得られたサンプルについて,培養法にて抗菌薬感受 性を調べるとともに,PCR法によりMRSAを規定するmecAの遺伝子の保有状況を調べ,そのデータの蓄積を行った。 感染根管の細菌培養は極めて困難であり,培養同定ができたとしても感受性検査までたどり着くことが極めて困難であった。しかし,Enterococcus faecalisを検出した例があり,VREのリザーバーとしての可能性について今後さらなる研究の必要性が示唆できた。 口腔粘膜上細菌を対象とした研究で,mecAの保有者が造血幹細胞移植期にきわめて多く,このことを歯科のみならず,医科あるいは口腔ケアすなわち口腔感染管理をテーマとする看護の学会で発信した。また,得られた結果について国際学会で発表を行うとともに,結果については論文としてまとめ,国際誌に受理され,発信されるに至った。
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