研究課題/領域番号 |
24792027
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
木村 智子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (20581367)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歯学 |
研究概要 |
Streptococcus mutansの主な病原因子であるバイオフィルム形成ならびに酸産生にはスクロースが深く関与している。スクロース輸送機構の一つであるホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼ系(PEP-PTS)においてスクロースを菌体内へ取り込むのに必須な酵素をコードするscrA遺伝子の役割を明らかにし,バイオフィルム形成をはじめとする他の病原因子との関連を解明していくことは,う蝕や歯髄炎の発症メカニズムを探る上で重要である。現在に至るまで,S. mutans UA159株を親株として作製したscrA遺伝子改変株を用いて,菌の初期付着との関連を中心に行った解析結果では,scrA遺伝子が菌の初期付着に関与していることが示された。より詳細なメカニズムを検索するために,今回ELISA法を用いて初期付着に関与するタンパク質PAcの発現解析を行い,親株と遺伝子改変株について比較検討した。 親株とscrA遺伝子改変株をBHI液体培地で培養し,対数増殖期の菌を98穴プレートに固着させ牛血清アルブミン溶液にてブロッキングした後に,一次抗体として抗PAcモノクローナル抗体を添加して反応させた。その後,二次抗体としてHRPマウス抗IgG抗体を反応させた後,発色させ,波長450 nmでの吸光度を測定したところ,scrA遺伝子改変株では親株と比較してPAcの発現が有意に低下した。 この結果より,scrA遺伝子がPAcの発現に影響を及ぼし,初期付着に関与している可能性が示唆された。 現在,同じくELISA法を用いて,バイオフィルム形成に関与するタンパク質の発現解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画当初の目的は,S. mutans UA159株を親株として作製したscrA遺伝子改変株を用いて,S. mutansの初期付着およびバイオフィルムの形成に重要な役割を担うタンパク質の発現解析を行い,scrA遺伝子とバイオフィルム形成の関連性を明らかにすることであった。 現在,初期付着に関与するタンパク質の発現解析は遂行したが,バイオフィルム形成に関与するタンパク質については解析途中である。
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今後の研究の推進方策 |
現在解析途中となっているGTFが合成したグルカンを結合させるのに重要な役割を担うタンパク質GbpAの発現解析を,ELISA法を用いて行う。 また,S. mutans UA159株とscrA遺伝子改変株の,非水溶性および水溶性グルカン合成量の測定を行う。これは,ウシ前歯において歯髄および軟組織を除去した歯根部象牙質を用いて,歯軸方向にほぼ平行な約500 μmの厚さの象牙質板を作製し,これを一定の大きさにトリミングする。作製した象牙質板をUA159株およびscrA遺伝子改変株の懸濁液に投入して37℃にて48時間嫌気培養し,象牙質板上にバイオフィルムを形成させる。なお,スクロース存在下と非存在下のグルカンの合成量を比較するために,両株ともにスクロースを添加しない懸濁液と5%スクロース含有の懸濁液を用いる。 培養後,プレートより象牙質板を取り出し,象牙質板へ付着した非水溶性グルカン,培養液中の非水溶性グルカンと水溶性グルカンに分離する。それぞれを0.5 N NaOHで溶解させ,遠心後に得られた上清を用いて,フェノール硫酸法にて吸光度の測定を行う。 一方,濃度を規定したグルコース溶液(0 μg/ml,25 μg/ml,50 μg/ml,75 μg/ml,100 μg/ml,150 μg/ml)を用いて,同様にフェノール硫酸法により吸光度を測定して標準曲線を作成する。この標準曲線を用いて,実験で得られた吸光度をグルカン濃度に換算し,各々のグルカン合成量を両菌株で比較検討する。また,スクロースを添加する場合と添加しない場合のグルカン合成量を比較検討する。 これにより,scrA遺伝子がグルカン合成にどのように関与しているか,またスクロースの存在がグルカン合成に与える影響が明らかになると予想される。
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次年度の研究費の使用計画 |
マイクロプレートリーダーを購入予定であったが,今年度は他の講座の機器を使用することができたため購入を見送った。しかし,研究室間のサンプルの移動等が,得られるデータに及ぼす影響を考えると実験全行程を他の研究室で行わなければならず,スペースの確保が困難な面もあるため,研究代表者の講座に設置する必要がある。次年度への繰越額は、マイクロプレートリーダーの購入に使用する予定である。 また,今年度の研究計画がすべて遂行できておらず途中となっており,今年度使用を予定していた研究費を次年度に繰り越して研究を遂行する。
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