Streptococcus mutansの主な病原因子であるバイオフィルム形成ならびに酸産生にはスクロースが深く関与している。スクロース輸送機構の一つであるホスホエノールピルビン酸依存ホスホトランスフェラーゼ系(PEP-PTS)において,スクロースを菌体内へ取り込むのに必須な酵素をコードするscrA遺伝子の役割を明らかにし,バイオフィルム形成をはじめとする他の病原因子との関連を解明していくことは,う蝕や歯髄炎の発症メカニズムを探る上で重要である。そこで,scrA遺伝子がバイオフィルムの構成成分であるグルカンの合成にどのように関与しているかを解析するため,S.mutans UA159株(親株)とscrA遺伝子改変株の非水溶性グルカンおよび水溶性グルカン合成量を測定し,比較検討を行った。 親株およびscrA遺伝子改変株をBHI液体培地と5%スクロース含有BHI液体培地の2種類の培地で培養し,グルカン量を測定した。 培養上清中の非水溶性グルカンと水溶性グルカン合成量は,BHIのみで培養した場合では親株とscrA遺伝子改変株の間に有意な差は認められなかった。一方,5%スクロースを添加した培地で培養したscrA遺伝子改変株のグルカン合成量は親株の合成量に比べて有意に低い値を示した。また,象牙質板に付着した非水溶性グルカン合成量も同様に,スクロース存在下でscrA遺伝子改変株は親株に比べて有意に低い値となった。 この結果より,scrA遺伝子がグルカンの合成に関与している可能性が示唆された。
|