研究課題/領域番号 |
24792029
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研究機関 | 九州歯科大学 |
研究代表者 |
鷲尾 絢子 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (10582786)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 象牙芽細胞分化 |
研究概要 |
本研究の最終目標は歯髄創傷治癒メカニズムの解明と象牙質・歯髄複合体再生療法の確立にある。最終目標の達 成に向け、当該年度では、我々が樹立した象牙芽細胞様細胞株(KN-3 細胞)を用い、多くの成長因子を含む多血小 板血漿(Platelet Rich Plasma,PRP)が象牙芽細胞分化に与える影響を明らかにすることを第一の目的としている。 今回、in vitroにおける象牙芽細胞様細胞に及ぼすPRPの影響を検討した.まず、PRPの抗炎症作用を調べるため、各濃度のPRPで6時間刺激、あるいは、5% PRPで0、1、3、6、12、24時間刺激し、抗炎症性サイトカインIL-1Ra、Lactoferrinと炎症性サイトカインIL-1βの発現をReal time PCRを用いて調べた。次に、KN-3細胞の象牙芽細胞への分化の影響を調べるため、0、0.1、1、2、5、10% PRPで1時間刺激し、象牙芽細胞分化マーカーであるDSPP(dentin sialophosphoprotein)およびDMP-1(Dentin matrix protein-1)の発現を調べた。さらに、細胞増殖への影響を5% PRPで刺激し、WST-8で検討した。 Real time PCRの結果より、5% PRP濃度において、IL-1RaとLactoferrinの発現は12時間まで時間依存的に増加したがIL-1βは有意な変化が観察されなかった。また、6時間刺激した群でIL-1Raの発現は濃度依存的に増加したがLactoferrinは5% PRPで最大の発現がみられた。次にKN-3細胞の象牙芽細胞への分化能を確認したところDSP、DMP-1発現はPRPの濃度依存的に増加した。そして、細胞増殖への影響は認められなかった。 PRPは抗炎症作用とともに、KN-3細胞の象牙芽細胞への分化誘導能を有することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請した研究期間内に、①KN-3 細胞にPRP を作用後、細胞形態変化、細胞増殖能およびアルカリフォスファターゼ(ALP)活性に関与する細胞内分子の発現・活性化を検討することにより、KN-3 細胞に影響を及ぼすPRP の至適濃度を決定すること、②KN-3 細胞にPRP を作用させた時の、石灰化能および象牙芽細胞への分化マーカーであるDSP、DMP-1およびNestin の発現を検討し、BMP-2 あるいはFGF-2 刺激時のそれらの発現と比較し、その効果を分析すること、③in vivo において、ラット断髄部にPRP 徐放性ゼラチン・スポンジをラット断髄部に充填したときの象牙質形成をヘマトキシリン-エオシン染色および免疫組織化学的手法を用いて分析することの3点を解明することを目的としている。このうちおおよそ①②の2点についてはおおよそ結果がでているため、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標である歯髄創傷治癒メカニズムの解明と象牙質・歯髄複合体再生療法の確立の達成に向け、第二の目的としてPRP を徐放するゼラチン・スポンジを用い、in vivo における象牙質形成メカニズムを明らかにすることを第二の目的としている。 週齢5 週のラットに5%ペントバルビタールナトリウム30mg/kgw で腹腔内麻酔後、全身麻酔下で上顎第一臼歯咬合面より1/2 ラウンドバーにて断髄を行う。 断髄部に充填する材料として、京都大学田畑教授が開発したゼラチンスポンジ、およびPRP を用い、(1)コントロール、(2)ゼラチンスポンジ単独、(3)PRP 単独(4)PRP 含浸ゼラチンスポンジを各々充填、仮封する。コントロールは充填物なしのまま仮封を行う。充填直後、7 日、21日の間隔で、5% ペントバルビタールナトリウ100mg/kgw を過剰投与し、4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定後、上顎骨より第一臼歯を抜歯し、10%EDTA による脱灰を行い、凍結切片あるいはパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン-エオシン染色および免疫組織化学的手法を用いて効果を比較検討する。さらに、私の所属する研究グループにおいて、FGF-2 徐放によりラット臼歯断髄部に再生象牙質が誘導されることを明らかにしているので(J Endod 2007, 2009)、その結果と比較検討することで、象牙質形成においてPRP が有効性を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
第一に、PRP調整のためのPRP 精製フィルターが次年度も必要となる。in vivoの研究を行うため、動物(ラット)、動物実験器具一式などに研究費を使用する。また、in vitroでの研究も継続して行うため、一般試薬 分子生物学用試薬、プラスチック製品などの消耗品費にも使用する。次年度には研究成果を公表するため、学会参加時の旅費(国内外)や論文の投稿料としても使用する予定である。
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