歯の接触感覚情報は歯科医療において重要な役割を果たしているが、客観的な評価方法は未だ確立されておらず、術者の技量や経験により判断されている。本研究は、歯に加わった外力に対する歯の接触感覚情報を客観的に評価できる計測方法を確立し、歯の接触感覚の特性を明らかにするとともに、その臨床応用を目指すことを目的としている。昨年度は、開発した歯の接触感覚計測装置を用いて、5名の被験者を対象として予備実験を行い、およそ20~70mNの範囲で歯の接触感覚閾値データを得ることができた。これは、1952年にManly RSらによって報告された閾値データと概ね類似した結果であり、本研究で得られた結果が妥当なものであると推測できる。 本年度は、歯の接触感覚計測装置および計測方法をより精度の高いものにするとともに、歯の接触感覚の本態およびメカニズムを明らかにすることを目指した。歯の接触感覚計測にあたり、視覚、聴覚からの主観的情報は可能な限り遮断し、計測方法も術者が主観的に介入できないように、計測装置の作動および閾値データの計測はコンピュータ・プログラムにより自動的に制御するように開発した。歯の接触感覚の特性を明らかにするため、まず、歯髄が歯の接触感覚に影響を与えるか検討した。そこで、10名の上顎大臼歯を対象とし、有髄歯・無髄歯における接触感覚閾値データを計測し、比較した。結果としては、有髄歯よりも無髄歯の方がより大きい閾値データを示す傾向がみられ、歯髄の有無が歯の接触感覚に影響する可能性が示唆された。次に、日常の咀嚼習慣が歯の接触感覚に影響を与えるか検討した。5名の左右上顎大臼歯を対象とし、それぞれの接触感覚閾値データを計測、比較、検討した。結果としては、非習慣性咀嚼側よりも習慣性咀嚼側の方がより大きい閾値データを示す傾向がみられ、日常の咀嚼習慣が歯の接触感覚に影響を与える可能性が示唆された。
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