研究概要 |
1,TNF-αの歯髄細胞のアポトーシスに対する効果の検討 TNF-α10 ng/mlを添加して2日間培養したヒト歯髄細胞に核の凝集や断片化は観察されず,カスパーゼ活性はTNF-α添加によりわずかに上昇するものの未処理群との大きな差は認められなかった.以上から,10 ng/mlのTNF-αは,歯髄細胞においてアポトーシスを誘導しないと推測された. 2,歯髄細胞の保持する幹細胞特性に対するTNF-αの効果の検討 TNF-αを添加し2日間培養した後,継代培養を行ったヒト歯髄細胞(以下,TNF-α前処理群)を用い細胞免疫染色を行なった結果,TNF-α前処理群はcontrol群と比較して,間葉系幹細胞のマーカーであるSTRO-1,SSEA4陽性細胞数が増加した.FACSによる表面抗原動態解析では,TNF-α前処理群において間葉系幹細胞マーカーのSSEA4およびCD146の陽性率が上昇した.また,幹細胞の持つ特性であるコロニー形成能およびテロメラーゼ活性は,それぞれTNF-α前処理により上昇した.さらに,TNF-α前処理により歯髄細胞は脂肪細胞や軟骨細胞,骨芽細胞への分化が促進されることを,形態学的および遺伝子学的に確認した.以上よりTNF-α刺激により歯髄細胞がより未分化な状態に誘導されると考えられた. 3,他の炎症性サイトカインによる効果の検証およびシグナル経路の探索 IL-1βやIL-6にはTNF-αが持ち合わせるリプログラミング効果は確認できなかった.また,TNF-αによる幹細胞化作用のメカニズムを明らかにするために,TNF-αの主要なカスケードであるNF-κBのシグナル経路を阻害したが,TNF-αによるリプログラミング効果は完全には阻害されなかった.以上から,このリプログラミング作用は,TNF-α特異的なものであり,NF-κB以外のシグナル経路も関与していると考えられる.
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