本年度は右側中大脳動脈梗塞モデルラット(MCAO)を作製し、実験群(咀嚼刺激群)と対照群(非咀嚼群)の2群に分け、一定期間の刺激を行った後、脳内の抗酸化物質であるアスコルビン酸と尿酸の定量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC-ECD法)を用いて測定し、両群の比較を行った。 MCAO作製後、脳梗塞後遺障害に伴う摂食・嚥下機能の低下による衰弱を軽減するため、術後1週間は液体飼料で飼育した。その後、固形飼料を摂取する咀嚼刺激群と、引き続き液体飼料を摂取する非咀嚼群に分けた。飼料変更後10週が経過した時点で、脳組織を取り出して正中矢状で左右側に分割した。さらに咀嚼と関連の深い大脳皮質と海馬に着目し、左側大脳皮質(健常側)、右側大脳皮質(梗塞側)、左側海馬(健常側)、右側海馬(梗塞側)の計4部位のアスコルビン酸と尿酸の測定を行った。アスコルビン酸では、4つの組織部位において、MCAO固形群とMCAO液体群との間に有意な差は認められなかった。尿酸では、左側大脳皮質(健常側)と右側大脳皮質(梗塞側)において、MCAO固形群がMCAO液体群よりも有意に高い値を示した(p<0.05)。 次に、人為的な咀嚼刺激を与えるため、2%イソフルラン麻酔下において、顎ニ腹筋および顎舌骨筋を剥離し、露出した舌神経に直接電極を当て、20Hz、20Vで10秒間の単回刺激を行った。ところが、アスコルビン酸と尿酸に変化は認められなかった。 歯根膜・咀嚼筋からの咀嚼刺激および咀嚼に関連する神経への電気的刺激が、脳梗塞後に伴う脳内抗酸化能の低下に貢献するか否かについて検討した。本研究の結果より、歯根膜・咀嚼筋からの咀嚼刺激は脳内抗酸化能低下の改善に寄与している可能性が示唆された。
|