本研究では,異方性材料であるグラスファイバー補強コンポジットレジンインプラントの力学的に合理的で個々の患者専用の設計を目的とし,有限要素法(以下,FEM)を用いて構造力学的検討を行った.FRC歯科用インプラント(FRC)と従来から用いられているチタン歯科用インプラント(チタン)の3D-FEモデルを製作し,荷重変形挙動の応力シミュレーションを実施した.結果,骨に生じた力学的挙動は①チタンとFRCともにインプラント頸部の緻密骨に高い応力の集中が認められた.②チタンでは応力と同じ部位に高い分布を示したひずみが,FRCではインプラント体ネジ部に移行しており,インプラント周囲骨に高いひずみの集中は認められなかった.③インプラントに対して水平方向の荷重に対しては,FRC,チタンともに骨内に認められた応力およびひずみの分布に大きな差は認められなかったものの,FRCではアバットメントでの大きな変位が認められた.また,骨の固さが異なる条件においても,すべての条件で同様の傾向が認められた.上記の結果から,固く密度の高い骨ではチタンが力学的に優位な状態となり,柔らかく密度の低い骨に対しては緩慢な力学的状態が認められたFRCが優位ではないかと考えられ,FRCは従来から用いられているチタンに対して異なる力学的状況を生じさせる可能性を有すると考える.よって,現在ではインプラント治療に際し,材料の選択肢はチタン一つであったが,患者の骨の状況によってはより有効な選択肢の一つになりえるともいえる.超高齢社会を迎えた現在,インプラント治療の必要性は高齢者に対しても求められていくと考えられる.高齢者においてはその骨密度の低下が懸念されているが,従来では悪い条件とされてきた柔らかい骨に対して,本研究の結果が新しい治療オプションとなることを期待する.
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