咬合不全は臨床において不安やうつ状態などの不定愁訴の原因であると考えられ,噛み合わせが引きおこす情動行動変化の神経科学的な解明が急務である。本研究は、咬合不全が情動や記憶など脳の高次機能に与える影響を、生体の最大の防御機構であり、ストレス性の情動反応に関わるオピオイド神経系に着目して生化学的、行動生理学的、形態学的に明らかにすることで、健康科学・予防医学の見地から良い噛み合わせの重要性を広く社会に提唱することが目的である。 昨年度までの研究成果により、生体の情動反応を調節している扁桃体において、不正咬合により即効性に引き起こされる脳へのストレス刺激を、ダイノルフィン系のオピオイドが軽減させていることが明らかとなった。また、上記の反応は学習・記憶と関連の深い海馬においても間接的に影響をおよぼしていることが明らかになった。 本研究により、不正咬合が生体に与えられた直後に脳内で起こる生体の防御機構の存在が明らかとなった。このことは不定愁訴の原因になりうる不正咬合が付与されても、ダイノルフィンが防御的に働いてしまい、不快感を軽減させていることを示唆している。これらの研究成果は、今後口腔環境が原因とされる不定愁訴のメカニズムを解明する上で非常に有用である。これらの結果を論文にまとめ、国際誌に投稿し、受理された。
|