歯科用CAD/CAMシステムでは,従来の補綴装置製作方法(ロストワックス法)とは異なる,補綴装置の歯冠形態を計算機上で設計する必要がある.しかし,患者個々の解剖学的形態や機能に調和させるのは容易ではない.そこで,人体の解剖構造を統計数理的に表現し,コンピュータによる診断・治療支援を行える計算解剖学的手法を用い,隣在歯の歯冠形態から当該歯(支台歯)の歯冠形態を統計的に推定することを目的とした.本研究で,歯冠形態のデータ抽出が容易なCT画像から構築した一歯のデータを対象とし,統計解剖モデルの構築を検討した. 補綴科へ来院し,CT撮影を行った258名のうち,口腔内に金属修復物を認めず,矯正治療の既往のない11症例を抽出し、その第一大臼歯を対象とした.対象のCTデータから三次元解析ソフト(Amira4.1.2,Mercury Computer Systems)を用いて第二小臼歯,第一大臼歯,第二大臼歯を領域抽出した.Thresholdを用いて自動抽出した後、連続部(接触点部)を手動で修正した.対象の患者データから一例を抽出し,第一大臼歯の欠損モデルを作成し,残りの症例の第一大臼歯のモデルから部分最小二乗回帰(PLSR; Partial Least Squares Regression)1)を用いることで,抽出した症例の欠損した第一大臼歯形状を推定した.推定形状と正解形状との誤差をAverage Symmetric Surface Distance (ASD)を用いて評価した.以上のleave-one-out交差検証により,本手法の精度を評価した. 両隣在歯(第二小臼歯、第二大臼歯)から当該歯(第一大臼歯)の形状が推定された.推定形状と正解形状との誤差は小さく,本法により隣在歯の形態から補綴装置の歯冠形態を推定するCAD/CAMシステムへの応用の可能性が示唆された.
|