本研究の目的は、閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome; OSAS)患者において、歯列弓・固有口腔形態が睡眠時の上気道閉塞性に及ぼす影響を3次元的に解明することである。OSAS発症には顎骨の大きさと舌等の軟組織量のバランスが関与し、小下顎を有する者ではOSAS発症のリスクが高いことが分かっている。しかしながら、これらの患者の中には小下顎を有するにも関わらず、OSASが重症化していない者も存在する。一方、歯列弓を含む固有口腔形態は顎骨と同様に舌の周囲に存在し、気道閉塞性に影響を及ぼすと考えられる。そこで、上気道閉塞性の重症度が一致する小下顎・非小下顎OSAS患者について、固有口腔形態の比較、検討を行った。 対象は、年齢、性別、BMI、AHI、SNAおよび舌横断面積を一致させた小下顎患者20名と非小下顎患者群21名とした。3Dスキャナーにより作成した対象者の歯列・固有口腔の3次元模型から、その形態および容積を計測し、それらについて統計学的に比較検討を行った。 その結果、小下顎・非小下顎群において、固有口腔の容積(p=0.099)、前後径(p=0.061)、幅径(p=0.166)、高さ(p=0.536)に有意な差は認められなかった。しかしながら、小下顎群の下顎歯列弓長径(p=0.013)および下顎下縁平面に対する下顎前歯歯軸(L1 to Mandibular)は有意に大きかった(p=0.000)。このことより、小下顎患者では、下顎前歯が唇側傾斜することにより、固有口腔の大きさを補償し、OSASの重症化を防いでいることが考えられた。以上より、固有口腔の大きさは上気道閉塞性に影響を及ぼすことが示唆された。
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