乳歯は永久歯と比較して歯質が弱いため、齲蝕の進行速度が早く、齲蝕は容易に歯髄に達する。齲蝕が歯髄に達した場合は、生活歯髄切断法や麻酔抜髄を行うが、その際には材料が生体に直接触れることとなる。生体に直接触れる材料には高い生体親和性が求められる。近年、HY材(タンニン・フッ化物合材)を含む材料が覆髄材として認められるなど、HY材中のタンニン酸の効果が注目されている。タンニン酸の歯科領域における研究はあまり行われておらず、行われていても、組織学的観察が主であり、細胞内情報伝達系など、そのメカニズムに関する報告はほとんどされていない。そこで本研究では分子生物学的手法を用いて、タンニン酸の歯髄に対する影響を探索することにより、タンニン酸の効率の良い応用法を検索した。lopopolysaccharide(LPS)の刺激によりラット歯髄由来細胞(RPC-C2A)の24時間後の生存率は8割程度になったが、タンニン酸の作用により、9割以上に回復することが明らかとなった。さらに、ELISA法の結果より、タンニン酸はラット歯髄由来細胞に対してプロスタグランジンE2の産生抑制を行うことがわかった。また、ウエスタンブロッティング法により、COX2やp38MAPKのリン酸化を阻害することが明らかとなった。さらに、MC3T3E1細胞を用いてタンニン酸による石灰化への影響を検索した。アリザリン染色を行い評価したが、タンニン酸による石灰化促進はわずかに認められる程度であった。以上からタンニン酸が抗炎症作用を有し、生体と直接触れる材料に含有させることにより、生体親和性の高い材料ができることが示唆された。
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