前年度(平成24年度報告済)の実験では、Rock作用薬を用いた培養で唾液腺細胞が長期培養可能となったメカニズムを解析した。(特にRockパスウェイのリン酸化、唾液腺マーカーの発現、形態学的変化について検討を行った。)平成25年度は、研究実施計画に基づき以下の実験を遂行した。 ①初代培養した口唇腺細胞をRock作用薬の含まれる培地で培養を行い、遺伝子障害の有無について核型解析法を用いて検討した。Rock作用薬の有無による培養細胞のKaryotypeに差は認めないため、Rock作用薬を長期に作用しても重大な遺伝子変異を起こす可能性は低いと考えられた。 ②長期培養可能となった現象へのアポトーシスおよび細胞不死化の関与を検討した。PCNAおよびCaspase-3の発現はRock作用薬の有無による差異はなく、TERTの発現は検出限界以下であった。したがって、Rock作用薬による細胞増殖シグナルの増強やアポトーシスの回避は認められず、さらにテロメラーゼの活性増強も認めなかった。 ③Rock作用薬の細胞障害性についてマウスを用いて毒性試験を施行した。B6マウスに細胞培養を行った際の濃度のRock作用薬を14日連続腹腔内投与し、採血および各臓器の病理学的検査を行った。その結果、Rock作用薬投与群およびRock作用薬非投与群での差は認めなかった。したがって、Rock作用薬の生体内での毒性は認めなかった。 上記結果から、Rock作用薬の生体への応用は安全性が保たれていることが明らかになった。一方、Rock作用薬を含んだ培地での唾液腺細胞の長期培養は、不死化やアポトーシスの回避等のカスケードを経由せず、平成24年度に明らかにした形態学的安定性を保つことで継代が可能になったのではないかと示唆された。
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