脆弱なインプラント‐上皮付着能により惹起されるインプラント周囲炎は、時としてインプラント除去に至らしめる。本研究では近年開発され、未だ研究対象になっていない液中プラズマ放電によるナノディンプルチタン(液中放電Tiと呼ぶ)に着目した。液中放電Tiが口腔粘膜上皮細胞の付着をより強固にすることを実証し、ナノディンプル加工がインプラント周囲炎の防御に有益であることを示し、新たな歯科用金属インプラント開発を行うことを目標とした。 Ti板では表面に均一なディンプルが出来ないことから、Tiチューブを採用し、全表面にマイクロ単位の凹凸が少ない一様なナノオーダーのディンプルを付与することに成功した。またマッピング分析を行ったところ、表面の酸化層の他にリンやカリウムも存在していた。 次に、液中放電Ti表面上にヒト口腔粘膜上皮細胞を播種した2次元培養にて、細胞親和性、増殖、細胞剥離試験から接着能を検討した。液中放電Tiの細胞増殖は対照の鏡面Tiよりも弱いものの、細胞親和性が認められた。また細胞接着では、対照より液中放電Tiの方が、長時間細胞が基板上に存在したことが確認できた。3次元培養では、細胞剥離を促すようにするための炎症惹起状態培養での鏡面Ti板と上皮を確認すると、基板から上皮が離れているようであった。それに対し、液中放電Tiと上皮を確認すると処理表面と上皮が接しているように見られた。 以上の結果から、液中プラズマ放電ナノディンプル付与Tiは、その表面の形態、性状から上皮細胞と強固に接着し、その細胞増殖までも抑制してしまうことが考えられた。しかし、液中放電Ti処理表面と上皮との接着は、問題なく接着されていたことが観察された。これらのことから、液中放電Tiは、上皮細胞、上皮と強固に接着することが示唆された。
|