研究概要 |
結合組織成長因子(CCN2)は,軟骨細胞の増殖・成熟及び基質合成を促進し,軟骨特異的CCN2過剰発現マウスにおいては膝関節軟骨の加齢性変化に抵抗性を示すことや,実験的変形性関節症モデルの関節腔内にCCN2を投与すると関節軟骨を修復できることが報告されており,CCN2は変形性関節症の予防や治療に有効であると考えられている.そこで本研究では,変形性関節症の予防・治療を目的に,CCN2の発現を亢進する新規化合物を網羅的に探索し,in vitroでその機能解析を行った. スクリーニング実験では,ヒト軟骨肉腫由来軟骨細胞株(HCS-2/8)を96-wellプレートに播種し,86種類のオーファンリガンド(Enzo Life Sciences)にて刺激し,培地中のCCN2のタンパク量をELISA法にて定量した.同定した分子の細胞への毒性は,MTS法(Promega)およびLDH毒性アッセイ(Roche)にて検討した.同定分子の軟骨分化に与える効果を検討するため,CCN2,Sox-9,Aggrecan,Type II Collagen,およびMMP-1,3,13のmRNAの遺伝子レベルをreal time RT-PCR法にて定量した.炎症存在下における効果を評価するため,同定分子存在下でHCS-2/8細胞をTNF-αで刺激し,同様の実験を行った. スクリーニングの結果,検索したオーファンリガンドライブラリー中ではHarmineがCCN2の発現を上昇させる唯一の分子として同定され,5 nMの濃度において,細胞増殖を抑制するも,細胞毒性は認めず,軟骨分化マーカーの遺伝子発現を促進し,軟骨分化を促進した.また興味深いことに,HarmineはTNF-αの刺激により誘導されたMMP1,3,13の遺伝子発現を抑制し,TNF-αの刺激により抑制された軟骨分化を促進した.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は前年度の研究を基に, in vivoにおける新規同定ペプチドHarmineの変形性関節症の予防効果の検討を行う. Harmine を8ヶ月齢マウスの餌に混ぜ摂取させる.経時的 (2,4,8週)に血液を採取し血中CTGF濃度をELISA法にて確認する.そのCTGFの血中濃度の上昇が認められた新規同定ペプチドにおいて,経口投与による変形性関節症の予防効果の検討を行う.つまり,通常マウスは約20ヶ月齢にて加齢性の変形性関節症症状を示すことが知られているため,8ヵ月齢のマウスに12ヶ月間経口投与を続ける.12カ月後に,マウスを屠殺し,膝関節および顎関節を回収し,マイクロCTを用い,骨棘の有無など骨形態学的に評価する.その後組織切片を作製し,H.E染色およびトルイジンブルー染色を用い,マウスの膝関節および顎関節の組織学的検討を行う.また,免疫染色法を用い,関節部におけるCTGF の発現,軟骨特異的マーカーのAgrecan,Type II collagenの発現およびMMP1,3,13の発現を非投与群と比較し ,Harmineの変形性関節症に対する予防効果を評価する. 更に,本研究ではin vitroにおいてHarmineが軟骨分化を促進することを明らかにしたが,メカニズムは未だ解明されておらず今後の課題である.in vivoの検討と並行してメカニズムの解明にも取り組む.
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