研究概要 |
凍結は、生物サンプルの保管のために用いられる方法であるが、ES細胞やiPS細胞から分化誘導によって形成される細胞集団は、様々な形態が混在した細胞集団であるため、癌化が危惧される未分化細胞も混在した状態で保存された。また、通常用いられる凍結保存液(1,300mOsmo「10%DMSO」)やiPS細胞のようなガラス化法による凍結保存液(8,000mOsm)は高張液であるために、細胞膜障害誘起し、その取扱に熟練操作が必要とされる。よって、これらリスクを排除した凍結方法(保存液)が望まれている。 氷晶を形成する水動態を調整するアクアポリンの関与を検討した所、アクアポリン4(AQP4)の発現により超急速凍結(-120℃/分)・融解後の生存率が2.4%から60.5%まで著しく上昇すること発見した。次にAQP4発現有無の細胞を種々の割合で混合培養し、超急速凍結融解後に生存した細胞をフローサイトメトリー法で解析したところ、AQP4発現細胞のみ選別(99 %以上)されることを確認した。また、バイオインフォマティクスにより、未分化ES細胞が神経系へ分化する初期の過程において、AQP4の発現が誘導され、神経幹細胞でその発現が最大となることを確認した。これらの研究成果は、ES細胞やiPS細胞(AQP4-)から分化した神経幹細胞(AQP4+)を選別すると同時に残存未分化細胞(AQP4-)を除去できる可能性を示唆した。これらの研究実績は、PLOS ONE(Feb 2014, vol9, issue2, e87644)に掲載された
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今後の研究の推進方策 |
ES細胞において、Nanog-EGFP_ ES cell lineを用いて、Embryoid body (EB)を形成後、0.25% trypsine-EDTA処理によって、細胞同士を剥離し、5x104 cells /ml a-MEM培地に分化誘導剤として、培養2日目にRA treatment(10-9M-2x10-6M, Sigma) を加えて分化誘導する。その後、ニューロスフェア形成、AQP4の発現に応じたタイミングで超凍結融解することで、AQP4を発現している神経幹細胞を特異的に選別し、その発現を認めない未分化細胞を排除できるか検証する。この細胞は、nestin遺伝子第2イントロン内のエンハンサー下に enhanced green fluorescence protein (EGFP) という蛍光を発するタンパク質を発現するトランスジェニックマウスから得られたES細胞であるため、神経幹細胞特異的に強く蛍光を発する。そのため、フローサイトメトリーによって他の細胞と識別が容易である。また、他の分化・未分化マーカー染色後、フローサイトメトリーを用いて細胞の性質をマルチに評価する。 浸透圧負荷の軽減による未分化細胞の除去と細胞毒性評価 凍結保存液に含まれる浸透圧負荷を1,600→432 mOsm(DMSO濃度10%→1%)に軽減することで、ES細胞から分化した細胞(神経幹細胞)の生存率を維持した状態で、未分化細胞を除去できるのか検証する。未分化細胞除去率は、凍結前後の細胞におけるEGFPの残存率をフローサイトメトリーによって検証する。
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