研究課題
若手研究(B)
本研究では、歯科インプラントのフィクスチャーが腐食・脱離する原因の1 つである細菌感染に着目し、フィクスチャー(チタン合金)の局部的腐食機序の解明し、抗菌性を有するチタン合金の創製を目的とする。本年度は、歯周病原性細菌(P.gingivaris)から主に産生される硫化物がチタン合金の腐食に及ぼす影響について、その変色程度と表面反応についてin vitro試験により評価した。0.1%の硫化ナトリウムを含む溶液(MQS)に純チタンを浸漬し、6、12、24および72時間静置した。浸漬前後の色彩から変色度、走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察、X線光電子分光分析(XPS)およびオージェ電子分光分析(AES)による表面化学状態および表面からの深さ方向の元素濃度分布を調べた。参照試料として、硫化ナトリウムを含んでいない超純水(MQ)中でも同様に各項目を調べた。MQに浸漬したチタンは72時間浸漬しても色差は1.5以下であり変色が認めれなかったが、MQSに浸漬したチタンは浸漬時間が長くなるにしたがって色差が大きくなり、72時間での色差は24と明らかに変色していた。SEM観察から、MQSに浸漬したチタンはわずかに粗糙になっていたが、明確な局部腐食や全面腐食は認められなかった。XPS分析によると、MQSに浸漬したチタンでは色差が大きくなり変色が進行するにしたがって、Ti2pスペクトルでは金属由来のピークが減少し、酸化物由来のピークのみとなった。一方で、MQでは72時間後でも金属由来のピークが認められた。AES分析から、MQSに浸漬したチタンではMQに浸漬したものより約4~7倍の酸化膜の厚みであった。これらのことから、硫化物による純チタンの変色は、酸化反応による酸化膜の厚みの増加が原因であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、細菌感染がチタン合金の局部的腐食機序の解明し、抗菌性を有するチタン合金の創製を目的としている。局部腐食が作用する機序として、口腔内で起こる腐食反応をin vitroで検証する必要がある。本年度は、口腔内細菌としてP. gingivarisが産生する硫化物が純チタンの変色に及ぼす影響について検討した。その結果は、硫化物の酸化によってチタン合金の変色が進行する可能性を明らかにした。また、細菌培養下でのチタンの腐食についても検討を始めている。
細菌培養下でのチタン合金の変色試験は、その細菌付着や培養期間など不明な点も多く検討が必要である。また、電気化学的腐食試験手法についても局所的な腐食が主であることを考えると、それらを解明するための詳細検討が必要である。平成25年度は研究代表者が長期海外出張でチタン合金での口腔内反応に関する検討を行う。そのため、平成26年度には長期海外出張で得られる成果も含めて、細菌付着によるチタン合金の腐食機構を明らかにし、優れた耐食性を有するチタン合金の創成を目指す。
該当なし。
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