研究課題/領域番号 |
24792155
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
谷本 安浩 日本大学, 歯学部, 准教授 (40312045)
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キーワード | 歯科矯正用アンカースクリュー / 生体吸収性材料 / 機械的性質 / 数値解析 |
研究概要 |
本研究の目的は新規な歯科矯正アンカースクリューを開発することである。本年度においてはアンカースクリューとその周囲骨のバイオメカニクスを明らかにするため、アンカースクリューと顎骨からなるモデルを作製し、実験および解析の両面から検討を行った。 1.矯正アンカースクリューの引き抜き試験 アンカースクリューの引き抜き試験を行なうために、顎骨を想定した皮質骨と海綿骨から構成されるポリウレタンフォーム製模擬骨に対して、トルクドライバーを用いてチタン製アンカースクリューを垂直に埋入した実験モデルを作製した。アンカースクリューの側方方向に矯正力を負荷した後、最大引き抜き荷重を測定した結果、負荷した矯正力が大きくなるにしたがい、最大引き抜き荷重は低下した。すなわち矯正力が大きくなるにつれて、アンカースクリュー/皮質骨間の機械的結合力は低下することが確認できた。 2.矯正アンカースクリューの有限要素法を用いた数値解析 引き抜き試験と同様の寸法・形状・試験条件の下、アンカースクリューと皮質骨および海綿骨から構成される3次元数値解析モデルを構築し、汎用有限要素ソフトウェアを用いた数値解析を行った。解析により得られた矯正力負荷時の応力分布図からは、皮質骨内に最大応力が発生し、アンカースクリュー/皮質骨界面に応力集中が起きている事が確認できた。また実験結果同様、矯正力が大きくなるに従い、皮質骨に発生する最大応力値は高くなった。さらにアンカースクリュー/皮質骨の接触面積が皮質骨に発生する最大応力値に及ぼす影響について検討した結果、接触面積が大きくなるにしたがい、皮質骨に発生する最大応力値は低下した。 以上の結果から、アンカースクリューの顎骨からの脱離を防止するためには、適切な矯正力の選択およびアンカースクリュー/皮質骨の接触面積が増大するアンカースクリューの埋入角度の設定などが重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、歯科矯正用アンカースクリュー材料への応用を目指して、機械的性質および生体適合性に優れる生体吸収性材料/リン酸カルシウムコンポジット体の材料設計・開発を行うとともに有限要素法を用いたアンカースクリューの最適設計を行うことで、新規な歯科矯正用アンカースクリューシステムを構築することを目的としている。平成24年度においては、生体吸収性高分子材料の中でも高強度を有するポリグリコール酸の試験体を作製し、その物理的性質や三点曲げ試験による曲げ特性やダイナミック超微小硬度試験によるダイナミック硬さなどの機械的性質を明らかにした。また平成25年度においては、アンカースクリューとその周囲骨から構成される実験モデルおよび数値モデルを構築し、矯正力負荷下における歯科矯正用アンカースクリューと周囲骨のバイオメカニクスについて、実験および解析の両面から明らかにした。 以上のように、現在までに従来の歯科矯正用アンカースクリュー材料であるチタンの代替材料として、その応用を検討するために生体吸収性材料であるポリグリコール酸素材の物理的および機械的性質などの特性評価を行い、さらには数値シミュレーションにより歯科矯正用アンカースクリュー/周囲骨のバイオメカニクスについて明らかにすることができたことから、研究遂行当初の目標を十分に達成できているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに得られた研究結果を踏まえて、機械的性質および生体適合性に優れる歯科矯正用アンカースクリュー体の開発研究を推し進める予定である。具体的には、ポリグリコール酸などの生体吸収性材料に骨伝導性を有するハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム系材料を添加することで生体吸収性材料/リン酸カルシウムコンポジット体を試作し、その機械的強度試験や生体適合性試験を行う。これにより平成24年度における研究対象であったポリグリコール酸などの生体吸収性高分子材料単体と比較して、機械的性質やアパタイト生成能に優れるアンカースクリュー素材を開発することが可能であると考えている。さらには平成25年度において実施した有限要素法を用いたアンカースクリューの数値解析によって得られた知見を基に、歯科矯正用アンカースクリューの最適形状設計を継続して行う予定である。
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