術後痛の発生機序の一つとして、肥満細胞の関与が報告されてきている。粘膜下組織や皮膚に存在する肥満細胞が種々の刺激により脱顆粒すると、ヒスタミン、セロトニン、トリプターゼ、PAFなどのケミカルメディエーターが帆出される。このうちトリプターゼは、一次求心性線維の自由終末に存在するProtease-activated receptor(PAR-2)に結合し、活性化されることにより神経性炎症が惹起される。そこで肥満細胞とPAR-2ならびに術後痛との関連を調べるため、PAR-2のアゴニストを用いて実験を行った。前年度までにPAR-2が術後痛成立に関与することが分かったため、本年は手術後痛を抑制する試みとして、PAR-2のアンタゴニストを用いて行動評価を行った。 1)ラット術後痛モデルにおけるPAR-2 antagonistの前処置効果を検討した。10mM ENMD1068 100μLを足底部に皮下注射して、30分後に足底切開した。切開後、経時的に自発痛の観察および機械刺激、熱刺激に対する反応を評価した。結果:ENMD1068の足底注射は、術後の早期の自発痛(A)、機械的アロディニア(B)、熱痛覚過敏(C)を1日から2日程度それぞれ抑制した。(**p<0.01 and ***p<0.001) 結論:PAR-2は術後早期における痛みの成立に関与するが、それ以降は他の因子が関与すると思われる。これからの研究課題としたい。
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