骨が自己修復して治癒できる大きさには限界があり、治癒しない大きな骨欠損の治療が重要な課題である。骨欠損修復は炎症により活性化され、炎症反応の消退に伴い低下する、との仮説を検証するために、ラット頭蓋骨規格化骨欠損モデルを利用して、完全には修復されない大きな欠損(一次欠損)を作製し、一次欠損の修復停止後に、残存欠損より大きい欠損(二次欠損)を作製して実験的に新たな炎症を起こし、骨修復が再開して欠損が完全に治癒するか否かを検討すること、また、骨欠損修復過程における炎症性サイトカインの役割を調べるため、前述の規格化骨欠損モデルに、nuclear factor kappa B(NF-κB)を標的とするデコイ核酸を浸潤させたコラーゲン担体を埋入して、NF-κBに発現を支配される炎症性サイトカインの作用を一括して抑制し、骨修復量への影響を検討することを目的とした。 まず、炎症抑制実験系の確立に着手した。NF-κBデコイを浸潤させる担体としてコラーゲンシートを用いた。規格化骨欠損のサイズに合わせて、コラーゲンシートの形態・厚み・分解速度などの調整を行った。厚さ1.0㎜または2.0㎜のコラーゲンシートを3.0㎜または6.0㎜のパンチでくり抜き、ラット頭頂骨の規格化骨欠損に埋入し、翌日・3日後・1週間後でその分解状態を調べた。担体は埋入後1日でほとんど溶解しており、3日後では完全に認められなかった。さらに、術後4週で、コラーゲン担体を埋入したラットと埋入していないラットの骨修復を組織学的に比較検討した。コラーゲン担体を埋入していないラットでは、骨欠損部の大部分に修復骨を認めたが、担体を埋入したラットでは、修復骨がほとんど見られなかった。コラーゲン担体の適用条件の検討が必要と考えられた。一次欠損作製後に二次欠損を作製する実験系については、現在予備実験の段階で実験系の確立には至らなかった。
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